長編小説

□新月の秘密 前編
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 アスランは、女御として入内し、シンの正妻、北の方となった。
 アスランの養父は入内に難色を示したが、帝に逆らえるはずもなく、結局は協力し、信頼できる口のかたい者を女御の側仕えの者として選び、宮中に送り込んだ。
 アスランを男だと知る者の心配をよそに、アスランとシンは、新婚生活を堪能していた。入内する以前は自分は子供が産めないからと、さんざん悩んでいたアスランだったが、シンのそばにいられるなら、どんな罰でも受けようと決意して以来、今を楽しもうと思えるようになった。
 
 夜が白々と明ける頃。
「アスラン、もう一回!」
「お前、いい加減にしろよ。俺を殺すつもりか」
「えー。気持ちいいんだから、何回やったって、いいじゃないですか」
「限度ってものがあるだろう。少しは俺の体を気遣え、馬鹿!」
「……なんか言い方が冷たい。アスラン、つい最近まで俺のこと、君って言ってたのに、お前になってるし。なんか俺、格下げされちゃってませんか。三年ごしの純愛を実らせて、やっと結ばれた俺達なのに」
 文句を言うシンだが、その声音は甘い。
「三年禁欲生活送れたなら、我慢できるだろう」
「あなたが目の前にいたら、我慢なんてできませんってば」
「あーもう、月に帰ればよかった」
 アスランはため息をついた。
「嘘つきですね。俺のことが好きで、離れたくないくせに」
「調子にのるな」
「だってアスラン、永遠の命、俺のために捨てたじゃないですか」
「そうだけど。……あーあ。はやまったかな」
 不機嫌なアスランも、なんか、けだるげで色っぽいな、と思いながら、シンはアスランの頬に口づけた。

「ところで、俺、ひっかかってることがあるんですけど」
「なに?」
「あなたが地上に落とされた理由。姦淫の罪がどうのこうのっていうやつ。皇后のいる月の帝の誘いを断って〜って、皇后って、女ですよね。ってことは月の帝は、女帝じゃないってことで、男なんじゃないんですか?」
「……そうだけど……」
「天人は、同性同士って、ありなんですか?」
「ありだよ。月の者は、竹の中から生まれるから、性交は繁殖のためじゃなく、想いを伝え合う手段の一つっていう感じで……」
「ありなんだ……。でもそのわりに、アスランは自分が男だっていうことを気にしてましたよね」
「こちらの世界のことは、しっかり学んでいるからな。子孫を残すためには、男女の組み合わせじゃないといけないことは、わかってる」
「で、その月の帝とやらとは、何もなかったんですよね?最後までしなかったけど、口づけくらいはしちゃったとか、きわどいところまではいっちゃったとか、そういうことはないですよね?」

「………………ないよ」
「うわっ!なんか、すっごく間が空いたんですけど!」
「ないよ」
「嘘だ!絶対なんかあったんだ。うわぁ。俺、泣きそうなんですけど!アスランの裏切り者ー!」
 シンは、アスランの首に泣きついた。アスランはうっとうしそうに、シンの頭をはたく。
「うるさいなぁ。言っておくけど、俺、こちらの習慣については詳しいから、添い臥しだって知ってるんだぞ」
「え……」
「添い臥し。皇子は、元服の夜に、女人に一緒に寝てもらうんだろう。多くの場合はただ寝るんじゃなく、体の関係を持つ。そうだよな?お前、女人と寝た経験あるんだろう。俺は月の帝とは何もなかったけど、たとえ何かあったとしても、責められる筋合いはないぞ」
「俺は、確かに添い臥しされましたけど。でも、やってませんよ。その気になれなかったから。俺、あなた以外に欲情したこと、ありません」

「…………そうか」
 アスランは頬を赤らめた。
「あ、今すごく嬉しそうな顔した」
「してない!」
「嫉妬してたんですか」
「してない!」
「かわいい〜。もう、絶対あと一回やっちゃいます!」
 シンはアスランの首に口づけて、足の付け根をなでた。
「あああ、もうっ!新月が近いから、俺は疲れやすいんだ。いい加減にしてくれ」
「アスランは、新月の夜は体が辛いから、絶対に来るな、来たら二度と抱かれてやらないって言いますよね」
「月の者ではなくなったといっても、普通の人間とは少し違うからな。月の光を浴びないと、力が出ないんだ」
「弱ってるアスランも、そそられると思いますけど」
「新月の夜は来るな!絶対に来るな!来たら許さない!」
「はいはい。わかりましたよ。じゃあ、あと一回やらせてくれたら、新月の夜は我慢します」
「約束だぞ」
 アスランは、シンの首を引き寄せた。
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