小ネタ

□雑記小話集3
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9月20日の雑記より。

シンアス+ハイネ小話


*カラオケ*

 アスランは、学校から帰ると、採点されたテスト用紙を、家庭教師のハイネに見せた。
「満点か。さすが俺」
「ほめるのは、自分自身なんですか」
「お前もすごいけど、俺もすごい。俺の教え方、うまいだろう?」
「まぁ、確かに、うまいですね」
 ハイネは、質問には、的確に、わかりやすく答えてくれる、優秀な家庭教師だ。

「満点祝いに、カラオケ行くか!」
「え」
「今日こそ、お前も歌えよ、アスラン」
 顔をしかめたアスランを、気にとめることなく、ハイネは携帯でシンに電話した。
 カラオケですか?行きます!と即答したシンの声は、ハイネのそばにいたアスランにも聞こえた。
 嬉しそうなシンの顔が目に浮かぶ。しぶしぶアスランは、ハイネとカラオケボックスに向かった。

 先に着いて待っていたシンと、中に入る。
 最初に歌うのは、いつもハイネ。歌の上手さは、はんぱではない。プロの歌手にだってなれそうだ。
 続いて、シンも熱唱する。こちらも上手い。
「おいおいシン、ラブソングをアスランを見つめながら歌うなよ!」
 間奏中、曲に負けない大声でハイネが言う。
「つい、自然に」
 自分達と重なる歌詞があると、アスランを見てしまう。
「自然にときたか。愛されちゃってるな、お前」
 ハイネはアスランの肩を叩く。アスランは赤くなりつつ紅茶を飲む。
「次は俺もラブソングを歌うぜ。うっかり惚れるなよ、アスラン」
「惚れません」
「惚れさせません」
「お前ら、言い方が冷たい。独り身には優しくしろよ」
 ハイネは、ラブソングを切なく熱く、歌いあげた。
「ところで、今年の学園祭って、カラオケ大会あるのか?」
「後夜祭で、ありますよ」
 アスランが答えると、ハイネは、にやりと笑った。
「よし!カラオケキングの俺が、盛り上げてやる!」
「出場できるのは、一応、在校生だけってことになってますけど」
 シンの言葉に、卒業生のハイネは肩を落とした。しかし、すぐに立ち直る。飛び入り参加で強引に出場する手もある。文句は言わせない。歌で黙らせる自信があった。

 シンとハイネは、交代で歌う。アスランはひたすら聴いていた。
「お前も歌えよ、アスラン!」
「歌ってくださいよ、アスラン!」
「下手でも気にするな!歌に大切なのはソウル!魂だ!歌っちゃえ!」
「流行の歌、わからないって言ってましたよね。学校で習ったことのある歌なら歌えるんじゃないですか?あ、『森のくまさん』ありますよ」
 好きな歌をたくさん歌ってテンションの上がった二人に迫られ、アスランはたじろいだ。
「どうしてそんなに、歌わせたがる?」
「アスランの歌を聞いたことがないから」
「ですよ」
 アスランは、歌は得意ではない。上手い人間の前で歌うのには抵抗がある。しかし、カラオケに来るたびに歌えと迫られるのも、嫌になってきた。
「一曲歌ったら、満足してくれるか?」
「する」
「します!」
「どんな声で歌っても、文句は言うなよ」
「わかった」
「了解しました!」
 アスランは、特殊な歌を選択した。リモコンを手に取り、曲番号を送信後、男性の声を女性の声のように変換する、ボイスチェンジャー機能を使う。
 曲は、『はじめてのチュウ』。加工された高音が印象的な歌だ。
「……」
「……」
 まさか、そんな曲を選ぶとは。シンとハイネは、しばし呆然とした。
 上手いのか下手なのか、よくわからない。音程はところどころはずれているような気もするが、とにかく、かわいい。
 ボイスチェンジャーを使って違和感のない曲、というだけの理由で選んだアスランだったが、歌っている内に、恥ずかしくなってきていた。つい、シンと初めてキスした時のことを思い出してしまい、顔が熱くなる。
 思い出したのはシンも同様で、歌い終わった時には、二人して真っ赤になっていた。
 目を合わせた後、つい、唇を見る。

「待て待て待て。今すぐキスしたい的ピンクオーラを出すな。俺がここにいること、忘れるなよ」
 はっと、我に返るアスラン。邪魔なのがいると言いたそうな目をしているシン。

 ハイネは、ふう、と、ため息をついた。
「俺、ちょっと、ドリンクバーに行ってくるから、待っててくれ」
 そう言って、出て行く。

 二人きりになれば、遠慮なく、いちゃつけることだろう。
 ハイネは、俺って、いい奴だなと、自分の優しさに感心した。


 END
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