小ネタ
□雑記小話集2
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2月2日の雑記より。
シンアス小話
*絆*
アスランと木刀を交えながら、銀髪の麗人は、笑みを浮かべた。
以前とは、向けられる気迫が違う。生きる意思を持つ者の目だ。
そうでなくてはならない。気迫のみで勝つことができたとて、嬉しくなどないのだから。
「笑っている余裕があるのか?」
問うたアスランの木刀が、わずかにイザークの髪をかすめる。
「変わったなと、思ってな」
かつて共に戦へ赴いた時のアスランのまなざしは、死に急いでいるようにしか見えなかったのに。
事実、アスランは死に場所を求めていた。母は命と引きかえにアスランを産んだ。父は戦でアスランをかばって死んだ。他の命を犠牲にしてまで生きる価値があるのかと苦しみながら、アスランは自害することができずにいた。
今は、違う。
アスランは、自分とイザークを見ている、赤い瞳の少年に目をやった。
生きる意思を、与えてくれた者。
「俺は、負けるわけにはいかないんだ」
アスランは振り下ろされた木刀をかわし、脇をすり抜けながら、胴を打つ。
イザークは、負けはしたものの、清々しい気分だった。ただ、少し悔しくはある。好敵手を変えたのが、自分ではないことが。
イザークは、アスランに駆け寄ったシンの頭を、こぶしで小突いた。
「「痛っ!」」
同時に声をあげ、頭に手をやり、イザークをにらむシンとアスラン。
「貴様達は、妙な体質だな」
「俺とアスランさんは一心同体ですから。まさに身も心も一つ。昨夜のアスランさんはかわいかっ、痛っ!いたたた、痛いです、あんたも痛いでしょ、やめてくださいよ」
「うるさい!恥ずかしいことを言い出すな」
アスランは、シンの腕をねじりあげた。手加減はしている。シンがどの程度痛みを感じるか、わかっているから。
アスランとシンは、痛みを共有している。アスランが痛みを感じれば、シンも痛みを感じ、シンが痛みを感じれば、アスランも痛みを感じる。
不思議な深い絆が、二人の間にはあった。
出会い、恋をしたのは、必然であったのかもしれない。
親を亡くし、妹だけはこの先何があっても守りたいと、若くして強い意思を持って剣を取ったシン。
アスランと出会い、シンにはさらに、守りたいものができた。
守りたいのは、愛しい人。そして、愛しい人に愛されている自分自身。
自分の痛みが相手の痛みになるのは、悲しくもある。痛みを感じさせたくはない。だからこそ、自分を大切にしようと思えるのだ。
イザークは、二人を見て、肩をすくめた。じゃれあうのは、閨でのみにしてもらいたいものだ。
雲間から、優しい光が射していた。
END