小ネタ
□雑記小話集2
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1月22日の雑記より。
マグロネタ・シンがいやみで言ってない編小話
*マグロって言わないで*
「アスランさんって、マグロ……」
ベッドから降りながら、シンは、つぶやいた。
アスランは、シンの声を聞き逃さなかった。がばりと起き上がる。
「え!?」
「あ、なんでもありません」
振り返って、シンは、にっこり笑った。
身支度を整えると、まだ裸のアスランの肩に、そっと服をかけて、寝室を出た。キッチンで二人分のコーヒーを淹れる。
アスランは、ベッドの上で、うなだれていた。
マグロ。マグロって言った。絶対言った。
体を重ねる時、ただ寝ているだけの自分に、シンは不満を抱いているのだろうか。つい本音がこぼれてしまったのだろうか。
アスランは優しい恋人に色々してもらうばかりで、自分がしてあげていないことを反省した。
しかし。
マグロじゃなくなるためには、どうしたらいいんだろう。
あれこれ考え、アスランは一人で赤くなったり青くなったりしていた。
大学の講義の後、シンは書店へ寄った。アスランが好きな作家の新刊が、発売されているはずだ。
新刊コーナーに向かう途中で、シンはアスランの姿を見つけた。アスランは意外なコーナーにいた。
ええっ!?アスランさん!?
18歳以上でなければ買えない雑誌の並ぶコーナーで、アスランはうろうろしていた。落ち着きがなく、表紙をちらりと見ては、床に視線を落とす。
シンは、よろめいて、足音をたてた。アスランが気づく。
「ぴぎゃっ!」
変な悲鳴がアスランの口から漏れた。
「アスランさん……」
女性の裸が見たいんだろうかとショックを受けつつ、ぴぎゃって言ったなこの人、と、ちょっぴり笑いたいシン。
「シン……えっと、あの、俺……」
真っ赤になって、アスランは口ごもる。さっきの変な悲鳴をきっかけに、周囲に注目されていることに気づき、シンはアスランの腕を引いて、外に連れ出した。路地に入り、人目を避ける。
「ああいうの、欲しいんですか?」
「参考に、なるかと、思って……でも、買うのは恥ずかしくて……」
「参考?」
「俺、マグロ、嫌だから……」
「はあ?」
「シン、マグロって、言っただろ」
「…………ぷ」
「ぷ?」
「あはははははは」
「シン?」
「『アスランさんって、マグロは大丈夫ですか?魚、苦手で、ものによっては、アレルギーで蕁麻疹出るんですよね。もし大丈夫なら、ヨウランが教えてくれた寿司屋、一緒に行きませんか?』、って、言おうしたんですけど、ベッドで余韻に浸っている時に言うセリフじゃないなって思って、最後まで言わなかったんです。ヨウランが最近通い始めた寿司屋、すごくマグロが美味いらしいんですよ」
シンはアスランの勘違いが、おかしくて仕方がなかった。マグロではなくなるために、雑誌を参考にしようとして、しかも恥ずかしくて買えずにいたアスランが、かわいく思える。
「そんな話、だったのか……」
「ですよ」
「俺、てっきり……」
「マグロなアスランさん、俺、好きですよ」
「マグロだとは思ってるのか!」
「あ、すみません。ちなみに、買おうとしてた雑誌、たぶん参考になりませんよ」
「ああいうの、シン、見たことあるんだ」
「まぁ、多少」
「そっか……」
目に見えて、アスランは落ち込んだ。
「アスランさん以外の裸なんて、今は見たいと思いませんよ。俺に身をゆだねてくれてる時のあなた、すごくかわいい」
かああっと、アスランの頬が赤く染まる。
「勘違いだったのは、わかったけど……してもらうばかりじゃなく、俺も、シンに、してあげたい……その……なめたり、とか……」
ぼそぼそと、小さな声で言うアスランの髪を、シンはなでた。
「俺があなたにしてる時のやり方、参考にすればいいのに」
「最中は気持ちよくて頭がぼーっとしてるから、シンがどこをどうしてたか、なんて、後で思い出そうとしても、よくわからない……」
「どうされてるか、今度、頑張って意識してみてくださいよ」
「うん。やってみる」
「素直ですね。今すぐ、したくなりました」
「ええっ!?外は、ダメだろ」
「白昼の路地裏の情事、なんていうのも、たまにはいいでしょう?」
「よくない!」
「騒がないで。人が来ますよ」
シンはアスランの唇を唇でふさぎ、下肢に触れた。
アスランはシンに、たやすく心と体を支配される。
自身をたどるシンの舌の動きを、必死に記憶しようとするも、与えられる快楽に、アスランは溺れた。
END