短編小説

□永久の蜜月
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 翌日、アスランは体を起こした。体に力が入らないが、これは新月が近いせい。熱は、平常よりわずかに高い程度だ。

 以前シンからもらった、たくさんの文を、広げて並べる。シンが見たら、拙い歌を読み返さないでくださいと言うだろう。
 公務をおろそかにするなと言ったのは自分だが、シンに無性に会いたいと願う自分がいる。こうして拙いながらも心のこもった歌を読んでいると、寂しさは紛れる。

 懐かしい歌の数々。会えずにいた頃、シンがくれた歌の返歌を考えると、自然とそれは恋の歌になってしまい、書き直した。時には、シンには読み取れないと確信した上で、歌にこっそり、想いを託した。
 会いたかった。でも、会って顔を見て、声を聞いてしまったら、気持ちを抑えられなくなると思った。

 月からの使者が来たあの日、シンと再会した。やはり、気持ちは抑えられなかった。

 シンは帝で、世継ぎが必要なのに。

 夫婦になり、輝夜の女御と呼ばれ、シンのそばで暮らすようになった。
 シンが幸せそうだから、それが自分がそばにいるからだと信じさせてくれたから、世継ぎを産めないことへの負い目は、消えていった。

 色々なことがあって、きっとこれからも、色々なことがあるのだろうけれど、シンと一緒にいる限り、幸せでいられるのだと思う。

 

 今日は新月。夕陽に空が染まり始める時刻に、シンはアスランの寝所を訪れた。
 そこには、アスランの姿は見えず、白い、ふわふわしたものが、いた。
「ま、まさか……!?」
 うさ耳とうさしっぽ、どころではない。赤い目で、全身がふわふわした毛で覆われている。

 まだ陽は沈んでいないが、病のせいで体に、常にはない変化が起きたのだろうか。
 シンは激しく動揺しながら、ふわふわを、抱いた。
「……こんな姿になって、不安でしょう。大丈夫、俺がついていますよ。あなたは俺の妻。どんな姿になっても、俺は、あなたを……」

「くすくすくす」
「お静かに姫、気づかれてしまいますわ」
「こらえられませんわ。兄宮様ったら、うさぎを女御様と信じて……!」

「え……!?」
 几帳の後ろから、二人が出て来て、シンは呆然とした。
「からかってごめんなさい、兄宮様。このうさぎ、私の邸の者が捕まえたのですが、愛らしいので、わたしが飼うことにしたんです。女御様から病が完全に癒えたというご報告をいただき、うさぎを連れて快気祝いにうかがいました。そうしたら、女御様が、うさぎを置いてわたし達が隠れたら、兄宮様がうさぎを女御様と勘違いなさるかもとおっしゃったので、まさかと思いましたが、試してみたんです」
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