長編小説

□地上で君と 後編
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 夕闇が迫る中、シンは、アスランに深く口づけた。そして見つめ合うと、アスランはシンから少し離れ、うちかけを、はらりと、脱ぎ落とした。
 腰紐を、ゆっくりとほどき始めたアスランの手を、もどかしいとばかりに、シンはさえぎり、一気に腰紐をほどき、横たわらせた。組み敷いて、衣をはだけさせると、白い首筋に舌を這わせる。
 シンは衣を剥いでいくと、あらわになった、なめらかな肌を、唇でたどった。胸の突起を吸いあげる。吐息をもらすアスランの下肢に手をのばした。握りこんだものを刺激すると、アスランは、身じろぎをした。

 刺激されて育ったものをシンが口に含むと、アスランはシンの髪をつかんだ。やめてくれと、引きはがしたいが、同時に、もっと奥までと、引き寄せてしまいたくもあり、羞恥から、アスランの目に涙がにじんだ。
 シンはくわえていたものをはなすと、アスラン自身の先端からあふれたものと自分の唾液を、アスランの蕾に舌で塗りこめた。それを潤滑液にして、ゆっくりと指で、入り口をほぐしていく。
 指を埋めこまれて、異物感にアスランは体をこわばらせた。しかしシンの指が内壁のある一点に触れると、快感があり、アスランは戸惑った。
 指を抜くと、シンは情欲に濡れた赤い瞳で、アスランを見た。

「アスラン……」
 シンは入り口に、アスランの扇情的な姿を見てかたくなったものをあてがった。足を抱え上げ、一気に突き入れると、こらえきれずに、アスランが声をあげる。
 激しく揺さぶられながら、アスランはシンの首にすがりついた。
「っ……あっ……シ……ン……」
 自分の中に、シンがいる。内側から突き上げられる圧迫感や痛みより、一つになっている喜びが勝っていた。
「……アスラン……っ」
 ずっと、こうしてつながっていられたらいい、そう思いながらも、押し寄せる快感の波に従って、シンはアスランの中に、自分の欲望を吐き出した。


 月が昇った。
 常にはない明るい光は、日のごとく地上を照らした。虹色の雲がたなびく。羽衣をまとった美しい月の使者達が、列をなし、舞い降りてくる。
 矢をつがえた兵は、それを射ようとしたが、不思議な光を浴び、力が抜けて指は震え、矢を放つことができない。刀を構えた者も、柄を握り続けることができずに、刀を落とした。
 邸に光は満ち、すべての戸は、開け放たれた。几帳もすべて倒れる。
 
 光の中を、アスランは歩いた。しっかりとした足取りで庭に降り、天人の前に進み出た。
 天人の、澄んだ声が響く。
「……地上の者の、けがれを受けましたね」
 天人の目には、アスランは地上の者と同じに見えた。天人同士ならば感じられる、清浄な気が、アスランから失せている。地上の者と交わったことは明白だった。
「いいえ。けがれとは、思いません。愛する者から、その証を受けただけ」
「おろかなこと。月へ帰れば、永遠の命を約束されるものを……それを捨てるとは」
 天人はアスランに渡すために持ってきた羽衣に目を落とし、アスランを哀れんだ。
「永久に、そなたを追放いたします」
「はい」
 アスランは、穏やかに微笑んだ。
 月の使者達が、静かに天へ昇っていく。光は薄れ、虹色の雲も消えていく。
 兵達は呆然と、見慣れた姿に戻った、十五夜の月を見上げていた。

「永遠の命……」
 アスランのそばで天人の声を聞いていたシンが、つぶやいた。
 月の者の命が永遠だとは、知らなかった。アスランは、永遠の命を捨て、限りある生を選んだのか。自分のそばにいるために。
 シンは、アスランを抱きしめた。
「あなたがなんと言っても、俺は、あなたを妻にする。そして、一生、あなただけを愛します」

 自分がそばにいることが、シンにとって正しいことなのか、アスランは自信がなかった。
 しかしアスランは選んだ。ここにいることを。
 自分が地上にアスランを縛りつけたとシンは思っているが、自分こそ、シンを縛っていると、アスランは思った。
 こうして縛ることは、罪だろうか。
 その言葉の通りに、他の誰も愛することなく、一生そばにいてくれるなら、永遠の命など惜しくはない。これが罪だというのなら、どんな罰を受けてもいい。
 アスランは、シンの腕の中で、目を閉じた。


 完(おまけの番外編「新月の秘密」に続く)
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