短編小説
□贈り物
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シンの誕生日には、真っ先に祝いの言葉をと、思っていたのに。
アスランは神官の宮で、一人、ため息をついた。
シンは、今、国王や、幾人かの騎士や聖騎士と共に、ディオキアにいる。二日間にわたるディオキアの十年に一度の祭典に、出席しているのだ。ディオキアの王宮に泊まっていて、帰りは、今日の夕刻になる。
親善試合でプラントの強さを思い知ったディオキアは、機嫌を取ろうと考えてか、頻繁に、プラント国王と騎士と聖騎士を招き、友好を深めようとしていた。
友好が深まるのはいいことだが。ディオキアの祭典の二日目がシンの誕生日にあたることは、アスランにとって、不運としか言いようがない。
誕生日は、ずっとそばにいたかった。
今日中に会えるのに、そんなことを思って落ち込む。
アスランは苦笑した。
自分の中から消せない罪を背負いながら、シンに愛されて、シンのそばにいていいのだと、信じられるようになって、こんな贅沢な悩みを抱くようになってしまった。
シンへの、贈り物を用意しよう。シンを待つ間、動いていれば、こうしているより、時間は早く過ぎてくれるだろう。
アスランは、何を贈ろうか、考えを巡らせた。思いついたものは、過去に、水晶で見たものだった。
アスランは、覚醒の間で、水晶にシンの姿を見た後、すぐにプラントの神官となった。
神殿での、癒しの集会。プラント唯一の神官である自分を、アスラン様と呼び、慕ってくる民を前に、アスランは足がすくんだ。
神に等しい力を持つと言われていても、一人の人間であり、神ではないのに。向けられる想いが、純粋な畏敬の念であればあるほど、遠く隔てられている気がした。
聖なる力が目覚める前からの友人である、キラの態度が変わらなかったことは、救いだったが、時折、孤独を感じずにはいられなかった。
辛かった。だが、水晶に映った彼の方が、きっと、ずっと辛い。なぜ、あんな顔をしていたのだろう。
アスランは、現在の彼がどうしているのか気になり、水晶に映した。
映ったのは、覚醒の間で見たのとは、全く違う彼だった。
黒髪に赤い瞳の彼は、あどけなく、そして、幸せそうだった。笑顔を見て、アスランは胸が温かくなった。
覗き見をするようなものだから我慢しようと思いながら、何度かアスランは水晶に彼を映した。声を聞きたいと願い、声を聞いた。少しずつ、彼のことを知った。シンという名であること。シンがいる場所が、孤児院であること。
孤児院にいるとはいっても、孤独の影は感じなかった。シンは、優しい人達に囲まれていた。小さな子達の面倒を、シンはよく見ていた。駆け回って遊ぶシンは、とても自由に見え、アスランは憧れた。
駆けっこをしていて、転んでしまった子を、助け起こすシンは、本当に心配そうな顔をしていた。転んだ子に怪我がないとわかると、笑顔に変わった。
皆に誕生を祝われているシンの姿も見た。皆に、シンは愛されているのだと、見ていてわかった。
ずっと笑っていてほしい。幸せでいてほしい。アスランはそう願った。
シンが幸せそうだと、幸せな気持ちになれた。
シン、愛してる。
まだ会ったことのないシンに、アスランは胸の内で告げた。