長編小説

□地上で君と 後編
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 ヨウランは、網代車のそばで、シンを待っていた。
「……アスランだった」
「え?」
「カグヤ姫は、アスランだったんだ。夜盗を倒した夜に出会った……」
「えっ。あの方、女人だったんですか!なぜ男の装束など着ていたんでしょうか。てっきり男だと……。よかったじゃないですか。これで、入内をすすめられますね!」
 シンは、アスランを女だと勘違いしたヨウランに、あえて訂正はせず、苦笑した。
「断られた」
「ああ、それで、落ち込んでいらっしゃるんですか。強引にすすめてしまえばよろしいのに」
「そういうわけにはいかない」
「諦めるんですか」
「……まさか」
 諦めるつもりはない。けれど、二度と会いに来ないでと言われてしまった。これから、どうすればいいのだろうか。しかもアスランは、月へ帰るのだという。荒唐無稽なことだが、真剣に言ったアスランの言葉を、嘘だとは思えなかった。


 後日、シンは、参内したパトリックを呼び寄せた。
 宴では直に尊顔を拝したとはいえ、帝とまともに言葉を交わしたことのないパトリックは、緊張を隠せなかった。
 人払いをし、二人きりになると、シンはカグヤ姫、アスランの出自について問いただした。言い渋っていたパトリックだったが、シンが、アスランが男だということは知っている、月から迎えが来るという話も聞いていると言うと、竹の中から生まれたというアスランの出自について、ありのままの真実を述べた。
 シンは教えてくれたことに礼を言い、アスランが男だということを他言するつもりはない、今は地上で暮らすアスランを、大切にしてさしあげてほしい、とパトリックに伝えた。


 竹の中から生まれたという、アスラン。やがては月へ帰る人。同じこの地上にいてさえ、離れているのが辛いのに、月と地上では、あまりにも遠く隔たっていて、この地上からアスランがいなくなってしまうことは、耐えられそうになかった。
 三年後の、十五夜……。迎えが来るその時、自分がとるべき行動を、シンは考えた。
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