贈り物
□君の所有権
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春の夜長。
何度目かも分からない絶頂の終わり、悔し紛れに背中に爪をたてると、乱れた呼吸でその肩口に顔を埋める。
「っはぁ…はぁ…てめ…まじ殺すぞ…」
「…は、殺すなんてどんだけ壮絶な告白よ」
そう言った坂田のにやけた表情は見えなかったものの、きっと憎らしい面をしてるのだろうと眉をひそめる。
「…クソ、腰痛ェ」
「横なれば?」
「るせェ、全部テメーのせいだろうが!」
突飛ばそうと腕を伸ばすが、うまく力が入らない。
にやにやと締まりのない表情を浮かべる男を睨み付けると、俺は舌打ちをして奴を背に布団にドカッと寝転がった。
「よしよし、騒ぐな」
隣に横になった坂田の腕が、後ろから自分を抱き締める。
この熱だけが俺にとって確かなもので、この温もりだけは嘘をつかない事。
それを知っているから、切望感に駆られる。
「なあ、今度いつ会えんの?」
指で髪梳きながら耳元でそう囁いた相手の声を払いのけ、
「いつだろうな、出来ればもう一生会いたくねーけど」
ぶっきらぼうに答える。
どうか俺の気持ちに気付いてくれるな、何度もそう心の中で呟きながら。
「…ふーん、ほんとに一生会えなくていいの?」
「…いつまでもテメーの性欲処理に付き合えるほど俺は暇じゃねェ」
「はっ、可愛くねェ。お前だって楽しんでる癖に」
絶望の中の、少しばかりの期待。
わざとらしい台詞を吐いてみれば、ほら、すぐに玉砕。
相手の言葉が存外核心をついている事に自嘲気味に口元を歪めて、俺はそうだな、とだけボソリと呟いた。
「…ンだよ」
背中に感じていた体温が離れたと思うと、突然俺の肩から背中にかけてをなぞるように指を滑らせている相手の行動に声をかけると、
「でっけェ傷」
坂田はため息をつきながらそう言って、また傷跡をなぞっている。
「…傷ぐれェ普通あるだろ」
「ん、でも俺ァこんなでかいのは…」
そう言いかけて奴の言葉が途切れたと思えば、坂田は「あ」と呟いて、
「そういや、おめぇにやられた傷があったな」
上半身を起こすと、俺を見下ろして目を細めた。
「…屋根の上の」
「そ、いきなりお前が斬りかかって来たの。これァなかなか消えねぇだろうなァ…」
坂田は呟くようにそう口にすると、目線を下ろしその傷跡に手の平を置いている。
「……………」
その姿を見上げて、俺は唇を薄く開いたまま、一生消えなければいい、と願う。
お前がその傷を見る度に、俺を思い出せばいい。
「…これ、最近の傷?」
「…っ」
俺の耳元でそう呟いた坂田の指先が右肩のまだ赤々しい傷跡に触れると、刺すような痛みが全身に走る。
びくと肩を震わせると、その反応を見た坂田の唇が俺の首筋に触れ、きゅっと強い力で吸い付かれる。
「っ、そこに跡残したら…」
「残したら何?いいじゃん、もともと傷だらけなんだし」
「関係ねーだろ…!キ、キスマークなんざ他の奴等に見られたら…」
肩を押し返し奴を睨み付ければ、普段見せないような真剣な表情が目の前にはあって、
「…………」
両手首を掴まれ乱暴に布団に押し付けられる。
訳も分からず坂田を見返せば、奴は抵抗する俺を本気で抑えつけ首筋に唇を落としている。
心拍数があがる。
首筋に走る痛みが身体の力を抜いていく。
何で。
何で俺に、ンなもんつけるんだ。
「…な、んで」
俺達はそんな関係じゃない筈だろ。
何で、
「…知りてェ?」
放心状態でその問いかけに小さく首を縦に振ると、
「…教えない」
奴はそう言って、目を細め小さな笑みを浮かべた。
言葉では繋がれない思いがあることを、俺は知っているから、
「…答え、分かったらまた会いに来て」
こんな不器用な事しか言えなくて、
「…正解したら?」
俺は土方の問いかけに目を細めて、
「…愛してる、って言ってやるよ」
こいつに傷跡を残した誰とも分からない男に嫉妬するなんて、どうやら俺ァ相当まいってる。
苦笑を浮かべながら、それなのに俺は、
この跡が消える前に、またこいつが現れる事を願ってる。
END