連載
□何度も
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「ちょっ、待て待て待てェ!強引!お前強引かっ!置いてかれる!取り出し口に頭だけ置いてかれるゥゥゥ!」
「っ、人に手伝ってもらいながら文句言うんじゃねェ!我慢しろ!」
男の悲鳴に眉を寄せながら、自販機に足を置き本格的に力を込める。
「オィィ!こんだけ引っ張って抜けねぇって事ァ取り出し口に何かが引っ掛かってるんだって考えてみよう!?力任せに引っ張るだけじゃ駄目なんだって頭使ってみよう!?」
「っ、るせェ!んなもん無理矢理引っ張りゃァ引っ掛りも取れんだろうよ!」
「引っ掛かり俺の顔ォォ!テメーのやり方じゃ出れた時には俺<スラッとした顔立ちね>じゃごまかせねェぐらい細長くなってるわァ!」
「百貫デブには丁度いいじゃねーか!むしろ今度は全身取り出し口に入ったらどう…だ…っ!」
「…っ!おおっ…!」
スポン!という潔い音に、一瞬男の胴体だけが抜けたのかと思案したが、地面に座り込み自分の手の平を久しぶりの再会と言うべく眺める男の姿に、ようやく自販機からの脱出が成功したのだと気付いた。
「…クソ、頭痛ェ」
酒の抜けきらない身体を酷使し過ぎた。壁に寄り掛かり頭を押さえると、何でこいつの為にこんな事を…と煮え切らない気持ちが沸き上がってくる。
「あー…だいじょぶ?」
「…るせェ、さっさと俺の前から消えろ」
「いや言われねェでも消えるけど。…おたく何か顔色悪くね?まだ酔い覚めてないの?」
顔を覗き込んでくる男に、余計な世話と吐き捨てようと唇を開きかけた時、
「…っ」
「危ね…っ!」
不覚にも足元がフラつき、支えようと伸びてきた男の腕に身体を受け止められる。
揺らぐ視界の中、存外たくましい男の腕に安心感を感じる。
そしてそのまま、この酷使した身体を休めたいと、まともじゃない意識の中で思ってしまった。
「…あのさ、まじで大丈夫…?」
しかし意識は男の声で覚醒する。眉を下げ心配そうに自分を見下ろす相手の姿に、自力で立ち上がろうと両足を踏ん張ってみるが、うまく力が入らなない。
「…うる、せ。ほっとけ」
「ほっとけって、お前…。今俺にしがみついてんの誰よ」
溜め息を漏らす男に、本当は悪態をついてやりたい。
しかしそれもままならず、相手に支えられたまま男の顔を見上げる事で精一杯だった。
「…誰が、テメーなんざに…」
「はァ…」
髪をかきながら大きな溜め息をつき、男は自分を見下ろしている。
「…何、だよ」
「屯所って何処よ。送ってく」
「ふざけ、んな。一人で…」
「何?帰れんの?」
「っ!」
ふわり、と身体が相手の背中へと回される。
「無理無理。お前フラフラだし」
「なっ、てめ、下ろせ…っ!」
「暴れんな、落として捨ててくぞコノヤロー」
「落とせ、そんで捨ててけ!」
「…土方君さァ、その意地っ張り生れつき?」
(…おかしい。何かがおかしい)
(だって、さっきまで自販機に挟まってたアホに、何で俺ァ背負われてんだ)
「軽いねェ、お前。俺と同じぐれェの体型してんのに」
「…お前と違ってこっちは鍛えてんだよ」
「何、いちいち突っ掛かってくるのお前の癖?」
「…………」
瞬くネオンの明かりも消えかけている大通り。人通りも無いこの道に、足音は一つだけ。
きちんと機能していない思考回路。相手の体温を求めるように肩口に顔を埋める。
寒い、気持ち悪い、頭が痛い。
三重苦を味わいながら、桜が舞う世界で、自分に振り返った銀髪の男を、確かに俺は前にも見たことがある、と、思った。
そして、そいつは確かに、俺にこう言ったんだ。
<置いてくぞ、十四郎>