短編

fanfare
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あまりの日射しの強さに思わず目を細める。
その日射しの透明さに、俺はふと冬を感じた。

真昼のかぶき町。
夜に比べたら些か活気のない大通りをたいした目的もないままにふらふらと歩いていると、

「クリスマスキャンペーンやってまーす」

ミニスカサンタの格好をした店員にチラシを渡された。

足を進めながらそのチラシにふと目線を下ろせば、水着姿に何故かサンタの帽子をかぶるという奇抜な格好をした一般的に綺麗なお姉ちゃんの姿がある。
そしてそのお姉ちゃんの隣には、触り放題やらクリスマス特別価格やら、いかがわしい広告の文字が記されていた。

普段だったらすぐに捨ててしまうようなチラシを俺はじっと眺めながら、チラシのお姉ちゃんのきりっとした目元があいつに似てるだなんて、何となく捨てられずにそのまま胸元に押し込んだ。



「クリスマスの予定が出来て良かったじゃねーか」

その直後、背後から聞き覚えのある低い声がした。

その方向にゆっくりと振り返れば、呆れた表情で俺を見ている恋人の姿がある。

「サンタプレイでも何でもお好みでどーぞ」

きっと背後で一部始終を眺めていたであろう恋人は、風俗店のチラシを受け取り胸元へと入れた事を咎めているのだろう。

俺は小さなため息をついて胸元からそのチラシを取り出すとそれをヒラヒラと地面へと落とした。

「どーぞ、じゃねーよ。誰が悲しくてクリスマスなんかにこんなとこ行くか。むしろサンタプレイならテメーとやりたい」

俺がそう言うと、土方は地面に落ちたチラシを拾って無言でそれに視線を注いだ。
そして次に俺を見上げると

「じゃあ何でちゃっかり懐に入れてんだよ」

訝しげな表情を浮かべる。

「うるせーな、後で捨てるつもりだったに決まってんだろ。こんな誠実な男捕まえてよく言うよ」

「不誠実の塊みてーな男が言うな」

土方はそう言ってチラシを丸めると、ぽいっと地面へ投げ捨てた。

それを横目で眺めながらボリボリと髪をかく。

「んで?年末まで大忙しのお巡りさんはこんなとこで何してんの?」

「っ、何だよその刺のある言い方。クリスマスの事は悪かったって言ってんだろ!」

そう言って俺を睨みつける土方は、どう見ても悪かったと言っている人間の顔ではない。

そう、この瞳孔マヨ野郎はよりによってクリスマスから年末にかけての一週間ちょいを、休日を返上してまでフル出勤するという恋人に優しくない計画を実行しようとしているのだ。


「は、はァ?何が?何のこと?別にお前がクリスマスに仕事しようが何しようが何の感情も芽生えねーんだけど。むしろ俺に何か感情を芽生えさせてくれ」

「…それなら、別にいい」

そう言って土方はフイと首を背けた。

(可愛いなチクショー。ほんとは会いてーよ、カップル的な行事をおめェと楽しみてーよ)

「むしろクリスマスってあれだろ?キリストの誕生日だろ?何?何でおっさんの誕生日をカップルで祝わなきゃならねェんだよ。意味分かんねーじゃん」

「いや、正確にはキリストの誕生日じゃなく異教徒が持ち込んだ文化らしいぞ」

「うるせェェェェェ!」

「何だよテメー、意味分かんねーよ」

「空気読め!必死に虚勢張ってる俺に気付けボケェェェェ!」



クリスマスの予定が無さそうな、恋人の居なさそうな、寂しい男を対象としたチラシ。
それを渡された俺は何だ。
何で同じ道を歩いて来たこいつは貰ってねーんだ。

クリスマスに仕事を入れて悪びれた様子もないこいつの態度は何だ。

それに苛ついてる俺はもっと何だ!


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