短編

だから、君に
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「まず服装。そのだらしねえ格好をどうにかしろ」

夜更けから夜明けにかけて降っていた雨もあがり、水たまりに反射する太陽の光がきらきらと輝いている。

そんな心地よい朝一番。

「その白髪は明日までに黒にしろ。ついでにそのふざけた天パも何とかしてこい」

奴は目つきの悪い瞳を更に細め、丸めて棒状になったノートを俺の胸に突き付けてきた。


清く正しく美しく。

今時笑ってしまうようなこの学園目標が現在でも規律正しく守られているのは、この銀魂学園に代々伝わる風紀委員の努力の賜物………らしい。

「クラスと名前は?あー…学生証も出せ」

そう言って事務的にノートを開くこの男は、泣く子も黙る風紀委員会副委員長、土方十四郎。

毎朝飽きもせず数人の委員のメンバーを引き連れ校門の前に立ち、学園の風紀を乱す輩の指導(という名の吊し上げ)を行っている。

鞄の底に入っていた学生証を無言で渡すと

「坂田銀時、減点2…と」

風紀欄に達筆な文字で数字を書き入れた。

「あのー…すみません」

「ああ?」

「その、何ていうか、俺達って友達まではいかないけど、一応知り合い…でしたよね…?」

「知り合い?ただのクラスメイトだろ?」

顔を思いっきりしかめた土方に、何だか胸が詰まりそうな思いを感じるが、そこは無視して話を続ける。

「ああ、うん。クラスメイト。…何か俺の気のせいかもなんですけど、さっき土方くんって俺のクラスと名前聞かなかった?」

「ああ、うん」

「いや、うんじゃなくて」

「…っ!じゃあ何て言やァいいんだよ!」

「言い方の問題じゃねェェェェ!」

がらがらと何かが崩れ落ちる音がした途端、俺は我を忘れて登校してくる生徒が多々居る中で、叫ぶような怒鳴り声をあげてしまった。

「三年間同じクラスのうえに毎朝こうやって何かしら絡みあんだろ!?何で?何でそれで俺の名前覚えられねえの!?おかしくね!?悪いけどおまえ若年性アルツハイマー!?」

「あァ!?誰が若年性アルツハイマーだ!?てめえこそそんな白髪頭しやがって!」

「そこじゃねェェェ!突っ込むとこそこじゃねェェェ!」

まだ最後のエコーがきいている最中、

「邪魔だ」

「ぶぐばァ…っ!」

強烈な力で背中から突飛ばされ、俺はそのまま飛ぶように地面に叩きつけられた。

数秒間ぶつけた鼻の痛みを感じた後、地についた顔をあげると、

「…高杉」

土方は戦闘本能を剥き出しの表情で、口元に笑みを含んでいる。

「…よォ、土方ァ」

この眼帯野郎は、高杉晋助。
現在ヤンキー街道爆走中の俺の、幼馴染み。

(つーか、高杉の名前は知ってんのかよ)

「荷物検査だ、おとなしく鞄寄こしやがれ」

本人は至って真面目に風紀委員の役割を果たそうとしているのだが、はたから見ればヤンキー同士の抗争、又は恐喝にしか見えない。

「鞄だァ?身体検査ならいくらでもさせてやるよ。…保健室で」

「ほんとか?」

素直に喜びを露にする土方に
(言葉の裏に気付け、セクハラ発言だろ)

なんて、若干苛々して。

そんな自分に、更に苛々して。

「銀時、お前何寝てんだ?」

地面にへばりついたままの幼なじみを訝しげに見下ろす高杉に殺意を覚えながら、勢いよく立ち上がり

「おめえがさっきした事を思い出せ!この学園は若年性アルツハイマーだらけかァァァ!」

「坂本!もしかして俺の事言ってんのかコラァ!」

「坂本じゃねえ!いい加減名前ぐれえ覚えろ馬鹿がァァァァァ!」

これで、校門前での抗争の仲間入り。
目の前の馬鹿二人と、報われない馬鹿一人。

「クラスメイトに会ったら、まずおはようの挨拶だろうが!話はそれからだボケェ!」

呆然と俺を眺める風紀委員と幼なじみに何ともかっこ悪い捨て台詞を吐いて、方向転換。

どしどしと校舎に向かう足取りは、何だか重たくて。


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