短編
□ほんとはね
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土方は前髪をかきあげると煙草を指から離し、火を靴でもみ消した。
総悟の発砲したバズーカに、桂の投げる円形の爆弾。そのあとの惨事は思い出すだけで頭が痛くなりそうだった。
結局桂は逃げ、近隣の家屋には修理費を請求され、ゴシップにはまたしても真選組やりすぎ、の記事。
また大きなため息をついて屯所の門を通りすぎると、ふんふんと気合いを入れながらラケットの素振りをしている山崎の姿が目に入るのだが、今日は怒鳴る気にもなれず素通りをする。
「副長?何かあったんですか?」
山崎はそんな自分を悟ったのか、ラケットを抱えたまま、おずおずと側に寄ってきた。
「…何でもねェ」
「そうですか、良かった」
自分が大丈夫だと言えば、こいつはそれ以上踏み込もうとはしない。
聞き分けよく、そうですかといつも笑顔で言う。
(…馬鹿だけど、有能な部下だな)
自室の襖をぱたんと閉じて胡坐をかくと、土方はまた煙草に火を灯した。
俺は、自分以外を見ないでだの、優しくしないでだの、そんなガキみてえな事は言わない。
お互い分別のある大人だ。
必要な距離は分かっているし、それが男同士ならきっと尚更の事だと思う。
「…めんどくせえ」
そう呟いて、前髪をかきあげた。
…俺は、自分に苛々している。
桂が居る事を隠したことに、俺は頭にきているのだ。
独占欲とか、そんなくだらないもので相手を縛る気はない。
そして、逆にそんなもので縛られるのも窮屈だと分かっていた。
(…分かってた、よな)
煙草の灰がぽとりと灰皿に落ちる。
白い煙の筋が、ツゥと天井に吸い込まれていった。
池田屋事件から始まり、報告書にあがる坂田、桂の文字。
攘夷なんて、と苦笑いを浮かべる坂田の言葉とは裏腹に、気が付けば何週間も、灯りのつかない万事屋。
それを見上げて、俺は何度も心の中で呟く。
…お前なんざ、さっさと死んじまえ。
それから何日か経つと、坂田はふらっと屯所に現れる。
生きてたのかと背中を向けたまま呟けば、あいつは何も言わずに俺を抱きしめるから、俺はそれで全て終わりにする。
何も聞かない。
何も言わない。
俺たちはそういう関係なんだって、暗黙の了解。
短くなった煙草を灰皿にぐりぐりと押しあてて、深いため息と共にゆっくりと俯いた。