短編
□ほんとはね
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夏の木漏れ日すら思わず眩目を細める初夏の陽気。
上着を肩にさげ、黒で統一された隊服を恨めしく思いながら、巡回を終え屯所へ帰るその一本道を歩いている。
苛々するのはこの蒸し暑い気温のせいだけではない筈なのだが、憎しみの対象は今は頭上にしかおらず、舌打ちをして仕方なく空を仰いだ。
「…暑ィ」
ぽつりとそう呟き、煙草に火をつける。
ライターの熱が陽炎のように揺れた。
今朝の巡回の途中であった。
暑い暑いと文句をこぼす総悟と万事屋の真下を通り過ぎようとした時、
「帰れっつってんだろコラァァァァ!」
聞き覚えのある声と共に二階の引き戸が吹っ飛び土方と総悟の足元にがしゃんと落ちてきた。
「何をキレている銀時!短気はあれだぞ、あの…何かよくないぞ」
「あーうるせえ!何かよくないって何がよくねェんだよ!」
総悟と共にぽかんと二階を見上げていると、引き戸のなくなった玄関から、頭をばりばりかきながら見慣れた男が顔をだした。
「…ったく。どうしてくれんだよこの引き戸。何回壊れれば気が済むんだよ。むしろもう直さないで、こんな感じでいくか?」
銀時は引き戸の前に立ち顎に手をかけている。
「旦那、何事ですかィ」
総悟の言葉に銀時はびくりと体を震わせた後、ゆっくりと振り向いて、
「あー…沖田くん…?」
何ともばつの悪そうな表情を浮かべた。
「あれ?見られたらまずい現場にでも出くわしちまいましたか?」
「…ん?別に全然そんなことないけど?」
「でもさっき怒鳴り声…」
「あ、あー、あれね!扉開かねえから思わず銀さん蹴り飛ばしちゃったよ。短気は良くないね、駄目だね、ほんと…」
「…何か後ろに隠してません?」
「え!?後ろ?何それ!?隠すって何を?」
「…声裏返ってるぞ」
土方が呆れた様子でため息と一緒に言葉を吐き出す。
「…匂いますね」
「いやいや、気のせいだって。そんな仕事してると疑い深くなるのは分かるけどさー…」
その最中、
「銀時、客か?」
饒舌に喋る銀時の言葉を遮り、ヒョイと玄関から長たらしい長髪の男が顔を出した。
(…桂)
バズーカを構えた部下に、それを目にして爆弾を手に取るテロリストの姿。
何を言う暇もなく、爆発音と砂煙が立ちこめる。
一般人の悲鳴を聞きながら、土方はその場にぼんやりと立ちつくしていた。