短編

愛なんて
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総悟が言った。

<端から見りゃァ、どっちにとっても都合のいい関係に見えますぜ>

利用してるのは、どっちだ?


「今夜、行くから」

大通りの道で、すれ違い様に耳元で囁かれた言葉。
振り返れば、奴は人差し指を唇に当てて俺に小さく微笑んでいる。

嘘でもいい。
俺は、奴に好きだと言われたい。
(これは、意地だ)

愛なんて不確かなもの、無くったって俺は―…



夜更け、部屋の前の廊下の軋む音に目線だけ向ける。

「お邪魔しまーす」

存外機嫌の良さそうな声だ。フラフラと覚束ない様足元に眉を寄せ溜め息をつく。

「酔ってんのかよ」

「ん、少しだけね」

「…重」

上機嫌で俺の首に腕をまわしている坂田をズルズルと引きずりながら布団に投げ捨てる。
すると、奴は俺を見上げながらふわりと笑みを零している。

「土方、おいで」

俺の背中に腕を回せば、引き寄せられた身体に熱が篭る。
薄れた月明かりだけが照らしている銀色の髪があまりに綺麗で、思わず胸が高鳴った。

こいつの匂いと、甘ったるい酒の匂い。

「…酒臭ェ」

「うるせ」

くるりと位置を代えられ押し倒されると、目の前には男の顔とその後ろに見える朧月。

「酒飲んじまったから勃たねェかなーと思ったけど、全然大丈夫だわ」

そう言って自分の着流しに手をかける相手の姿を眺めながら、俺はまたひとつ、自分に嘘を吐いた。

嘘だって、何度も吐けばそれが現実に思えるようになる。

傷付くな。

傷付くな。

男の体温を感じながら目を瞑る。
眉を寄せて、開くことのないように。
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