短編

長い夢
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「それで?お前は何をしに外に出て行ったんだ?」

先程まで賑わっていた一室も綺麗に片付けられ殺風景に映る広間の中央に大の男が二人、正座をさせられ近藤の尋問に顔を俯け拳を膝に置いている。

(…何で俺まで)

腹に顔を描きアホのように踊っていた近藤が別人のように存外局長らしい威厳を誇っているものだから、そんな文句は心の内のみに留めて、同じく俯き隣に正座をする土方を横目でチラと一瞥する。

「…煙草が切れたから、それを買いに…行ってました」

「じゃあ万事屋、お前はその間何をしてた」

「…こいつの部屋に…いました…」

二人の返答を聞いてゴホンと咳払いをした近藤は少し考え込むような素振りを見せると、ゆっくりと二人を見据え口を開いた。

「まずトシ、お前はそんな腕で誰にも何も告げずに外に出た事を反省しろ」

「…はい」

「そんで万事屋、お前は何しにここに来た?トシの護衛をしに来たんじゃないのか?依頼人を放っておくなんざ本当に言語道断だぞ」

「…はい」

「よーし、二人とも反省したな。それじゃ…「副長ぉぉおおお!」

近藤の言葉も途中で掻き消されるような雄叫びに近い声と共に広間へとスライディングしながら飛び込んで来た山崎の姿に、唇を薄らと開き呆然とする土方の横顔が見えた。

「良かったあ!無事でしたか副長!ほんと俺心配したんですからね!」

そんな土方を尻目に瞳を輝かせその身体に飛び付いた山崎は、普段の過剰な抵抗が無い事に安心しきり、背中に腕まで回しグリグリと胸に頭を押し付けている。

(てっ、てめェェェ!なに自然に土方に抱き付いて…!)


「おい山崎ィ。俺のもんに手ェ出すたァいい度胸じゃねーか」

その時、新たな訪問者の声に部屋が凍り付くような思いを感じた。
山崎は声にならない悲鳴をあげながら凄まじい早さでその身体から離れている。

「だっ、誰がテメーのもんだコラ!勝手に適当なこと抜かしてんじゃねーぞ!」

「嫌だなァ土方さん。既にアンタが俺の支配下にある事ご存じないんで?」

「支配下って何だァァァ!テメーの危ねェ世界に俺を巻き込むんじゃねェ!」




屯所までの帰り道、ほんの数分の距離が、いつまでも続く事を願った。

もともと似通った所もある、機会があれば案外まともに会話だって出来る。
きっとうまくやっていける、楽しい毎日を送れる。

だから、


お前と向き合って居るのが俺じゃないことに、堪らなくなる。



「…総一郎君は、」

ぽつりと後先も考えずにそう声に出したら、総悟のきょろっとした瞳が目線をあげて反応した。

「旦那、総悟でさァ」

「…あー、総悟君はさ、もう寝た方がいいんじゃねーの?もう遅ェし、朝から仕事だろ…?あれだ、第一ガキの起きてる時間じゃねーし」

随分だらだらとわざとらしい台詞を口にすれば、少年は微かにぴくりと眉を動かして、

「そりゃァお気遣いありがとうございやす。そうしまさァ」

二コリと素直に笑みを浮かべ、おやすみなせェと一礼、踵を返している。

(…やけにあっさりしてねーかオイ)

銀時が怪訝そうにその背中を眺めていると、山崎がその後に続こうと腰をあげた。

「それじゃあ俺もそろそろ。おやすみなさい、ゆっくり休んで下さいね副長。(ついでに)局長と旦那も」

「あ、ザキ待って!俺も部屋戻る!」

近藤が続いて立ち上がりバタバタと突然慌ただしくなった広間には、最終的には二人だけがぽつんと取り残される形となった。

「…………」

どかりと胡坐で座り込み煙草を燻している男とは反対の方向に視線を向けながら

「…へ、部屋戻るか」

そんな提案をしてみるが、土方は相変わらずモクモクと煙を吐き出しながら何かを思案しているのか、返事はなかなか返って来なくて。

その顔を覗き込もうと身体を前のめりにすると、


「…お前、」


その鋭い瞳に自分の姿が映っている。

「え?」

「…いや、やっぱ何でもねェ」

ぱっと顔を背けて立ち上がった土方を見上げて

(?何を言おうとしたんだ)

ガラリと引き戸を引いている男の後に続きながら、聞いた所でこの頑固な男が答える筈がないと肩をすくめる。


夜明けにはまだ早い、三日月の宵のこと。


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