短編
□だから言ったでしょ
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俺の手を覆う男の手の平に力がこもるだけで、心臓が張り裂けそうになる。
痛みだ。
脈打つ鼓動が内側から溢れ出て来るような、痛烈な痛み。
声を押し殺しながら白いシーツを掴む指に力をこめると、シーツに出来る皺が濃くなっていった。
「…っ、はぁ…」
「声我慢すんなって」
「がま、ん…してねェ…っ、殺す…ぞ…」
互いに顔が見えない事が、俺にとって唯一の救い。
ぐしゃぐしゃになったシーツ、安っぽい壁掛け、自分の指に絡まるこいつの骨張った指。
俺に見える風景と言えばそれくらいで、だからこいつの声だとか呼吸の音だとか、そんなのがやけに鮮明に聞こえて、
「十四郎」
本当に、どうしようもなくなる。
「俺の名前、呼んで」
「…っぁ、誰ががテメーの名、前なんざ…」
「いーから」
「る、せェ…っ」
顔を見合せてだなんて、今の関係の互いにはきっとあり得ない事で。
それなのにこいつはいつもこうやって、俺に名前を呼べとせがむ。
「意地っ張り」
だって、名前を呼んでしまえば、嫌でも認識させられる。
「っあ…っ、はぁ…」
こうして重なる手の平の熱が、
お前のものだってことに。