短編

だから言ったでしょ
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俺の手を覆う男の手の平に力がこもるだけで、心臓が張り裂けそうになる。

痛みだ。
脈打つ鼓動が内側から溢れ出て来るような、痛烈な痛み。

声を押し殺しながら白いシーツを掴む指に力をこめると、シーツに出来る皺が濃くなっていった。

「…っ、はぁ…」

「声我慢すんなって」

「がま、ん…してねェ…っ、殺す…ぞ…」

互いに顔が見えない事が、俺にとって唯一の救い。

ぐしゃぐしゃになったシーツ、安っぽい壁掛け、自分の指に絡まるこいつの骨張った指。

俺に見える風景と言えばそれくらいで、だからこいつの声だとか呼吸の音だとか、そんなのがやけに鮮明に聞こえて、


「十四郎」


本当に、どうしようもなくなる。


「俺の名前、呼んで」

「…っぁ、誰ががテメーの名、前なんざ…」

「いーから」

「る、せェ…っ」


顔を見合せてだなんて、今の関係の互いにはきっとあり得ない事で。


それなのにこいつはいつもこうやって、俺に名前を呼べとせがむ。

「意地っ張り」


だって、名前を呼んでしまえば、嫌でも認識させられる。


「っあ…っ、はぁ…」


こうして重なる手の平の熱が、



お前のものだってことに。


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