鳳宍小説

□無力ほど辛いものなどない
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跡部と鳳で宍戸をベッドに運び宍戸が起きるのを待つ。


鳳はその間ずっと宍戸の顔を眺めていた。

そして自分が改めて好きだというのを自覚する。



「ん……。あ…あれ?長太郎?」


「…はい。宍戸さん」


涙が出そうになった。


「もしかして、見た?」


「……はぃ…宍戸さん……」


「そうか……」


「おい、宍戸」


「跡部……。なんで長太郎に教えた?」


いきなり鳳の話になって内心ビクッとする。
そして、宍戸からこの言葉を聞いて宍戸自ら
鳳にシンナーのことを内緒にしてたと思うと
すこし悲しくなる。


「お前が中退するにあたってダブルスはどうする?テニスはお前と鳳のペアだ。
 鳳がどうしてやめるのかを知らないのはおかしぞ」



「そうか…跡部。長太郎と二人にしてくれないか?」


「あぁ…」



跡部はリビングで母と話してくると伝え
案外快く鳳と宍戸を二人きりにした。





「……………」
「……………」





重い沈黙が二人を包む。

その沈黙を破ったのは宍戸の方だった。


「なぁ、長太郎。俺どうしたらいい?」


どうしたらいいとは学校のことだろうか。
それともテニスのことだろうか。


「俺は、宍戸さんに戻ってきて、学校にきてほしい…です」



一応自分の考えを伝えてみる。


「俺だって戻りてーよ!!でも、何度もやめようとしたけど……やめれなかった……」


悲痛な叫び。
心の片隅でそれを俺に言ってどうするつもりなのかという気持ちが残ったが
あえて気がつかないふりをする。




「なぁ、どうすればいい?」




今にも泣きだしそうな宍戸。
鳳より細い肩がもっと細く見えた。

鳳はたまらず宍戸を抱きしめる。

宍戸は抵抗こそしなかったもののかといって抱き返すでもなくただ静かに抱かれていた。




「宍戸さん…宍戸さん…宍戸さん……」




俺は宍戸さんの名前を何回も連呼する。

宍戸さんは俺の頭を何回も撫でてくれた。

まるで俺は此処にいるよとでも言いたいように。
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