世界の物語
□第27話「小さな優しさ」
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ピンクの髪を揺らしながら一人の女性が甲板にあがる。
そこには今まで自分を護衛していてくれた青年の姿。
海の果てを見つめているのか、焦点があまり定まっていないようである。
エステル「どうしたんです?ユーリ。ぼんやりしちゃって」
「んー…?」と首だけを小さく動かし、エステルを確認すると彼は再び海に視線を戻す。
ユーリ「結界の外って、こんな感じなんだな……もっと早く外に出りゃ良かったぜ」
少し後悔の念が含まれた呟きにエステルは頷く。
エステル「初めて城の外に出た頃、町の広さに驚いたものです」
彼女の話をユーリは静かに耳を澄ましている。
エステルは風に身を委ねるように手を広げる。
エステル「でも世界はさらに広かったんですね」
ユーリ「…ここでは“町の外”な」
エステル「あっ、そうでした」
エステルのうっかりには慣れたものなのか、笑いながら訂正するユーリ。
ふと、さっき居たリィアナのことを思い出す。
ユーリ「不思議な奴だな、やっぱり」
エステル「ユーリ?」
ユーリ「ああ、さっきここに…―」
クラトス「ユーリだな」
二人が振り返ると、クラトスがいつの間にか立っており、青年を呼んだ。
気配もなく現れたクラトスに怪訝な顔をしながらユーリは彼の所まで歩きだす。