ShortT

□サンセットサイクリング
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それはとある暑い夏の日の夕方。

「あ、山本ぉ!」

振り返れば自転車に乗った親友がいた。
カゴにはスーパーのレジ袋。

「よぉツナ!お使いか?」
「うん。山本は部活帰り?この暑い中大変だねーっ」
「まぁな。けど大会近ぇし、頑張らねーとな!」
「そうだね。あ、」

ツナはゴソゴソと袋をあさり、アイスを取り出した。
半分に分けて、片方をオレに差し出した。

「お疲れ様!これはオレからの差し入れっ」
「マジ?サンキュー!!」

この笑顔見てるとほっとする。
この笑顔と、ひんやりとしたアイスに部活の疲れもふっとんでしまう。

「そうだツナ!今からちょっと時間あるか?」
「ま、まぁ…あるにはあるけど」
「アイスのお礼に、いいもん見せてやるよ!」

オレがこいでくと言って、ツナを自転車の後ろにのせて、颯爽と走り出す。

「山本、部活あがりなのに元気だねぇ…」
「平気平気っ」

ホント、不思議だ。
いつもなら、とっととシャワー浴びて、クーラー効いた部屋で横になりたいとこだ。
なのになんで今、こんなにワクワクした気持ちなんだろう。
家に帰りてぇとか、ちっとも思えなくて、むしろこのままどこへでも行ってしまいてぇと思うのは、ツナと一緒にいるからか。

「どこまで行くの?」
「着いてからのお楽しみ!」
「何だよそれー!」



誘ったときには強引だったかな、なんて思ってたけど、ツナも声が弾んで楽しそうにしてて、安心した。

そうこうしてるうちにもうすぐ目的地。
この長くて急な下り坂を下ればすぐだ。
ここを一気に駆け降りるのがスリルがあって楽しい。

「ツナ、しっかりつかまってろよ!」
「へ?ちょ…ちょっと…!」

2人を乗せた自転車は、坂を一気に駆け降りた。

「わぁぁぁぁ!!こわいこわいこわい!!!!」
「!!!」



ツナはオレにぎゅっとしがみついてくるもんだから、思わずドキッとして、ブレーキを握った。

先ほどよりもゆっくりになり、後ろから安堵の声がした。

「スリル満点だったろ?」
「それどころじゃないよもう、びっくりしたじゃん!!」
「わりーわりーっ」

ツナはオレにしがみついたままぶーぶー言いながらも、声は笑っている。

「山本といるとホント退屈しないや」
「ははは、そりゃどうも」

オレもだぜ、ツナ。
やべぇ、楽し過ぎる!

ツナがオレの背中に身を預けたまま、自転車はゆっくり、ゆっくりと坂道を下っていく。

この暑さで男同士で密着するなど暑苦しいことこの上ないはずで。
なのに、どこか心地のいい暖かさがオレの中にじわじわと広がっていく。
しがみつかれるのはちっとも嫌じゃなくて、むしろずっとそうしてていいぜ、なんて思った。

長い長い下り坂が終わると、目的地はもう目の前だ。
自転車を止めて、ツナにも降りるように言う。

「着いたぜ!ツナ」
「うわあぁぁぁ…」

目の前に広がるのは、真っ赤な太陽と、オレンジ色に染まった空、そしてキラキラと輝く海。

「すげぇ〜キレイだ!」
「だろ?」



ツナはすっかりその景色に夢中になって、じっと見つめている。
しかしオレといえば、その景色よりも、夕陽に染まるツナの横顔に、何故だか見とれてしまった。
おいおい、同性の親友相手に何を考えてんだ、オレは。
けれど、不思議と目を離せなくて、また、胸にじんわりと暖かいものが広がった。



何だろ、この気持ち。
さっきから何だか変だ。
あまりの暑さでオレは頭をやられてしまったのかもしれない。
うん、きっと、そのせいだよな。

「ツナ、そろそろ帰ろっか?」
「うん」

自転車のストッパーを上げ、乗って、と言おうとしたとき、先にツナが口を開いた。

「山本!」
「ん?」
「連れてきてくれて、ありがとう!!」



夕陽に染まったツナの満面の笑みに、心臓が止まるかと思った。

「っ…」

ガシャアァァァァン!!!!
思いっきり自転車を倒してしまった。

「山本!?どしたの?」
「な、何でもねぇよ!ははは…」
「ホントに大丈夫?」
「平気平気っ」

いかん、ホントにどうかしてる。
ツナの笑顔にドキドキしてしまうだなんて。
それもこれも暑さのせいに違いない…はず。

「山本、遠回りして帰る?」
「へ?」
「さっきの坂登るのキツくない?ちょっと疲れてるみたいだし」
「………じゃあ、お言葉に甘えて!」

も一度ペダルこいで、自転車を走らせる。
日が落ちてもまだまだ暑いけど、心地のいい風がなびく。

後ろにはオレのシャツの裾をひっぱるキミがいて、それが何だか無性に嬉しくて。
あの坂ぐらい、苦でもなんでもなかったんだろうけど、少しでも長く、このままでいてぇなぁ、なんて思ったんだ。


END

→あとがき
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