Gift
□やっぱりキミでなきゃ
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プルルルル、プルルルル
「はいもしもし沢田です」
「あっツナ?」
「山本ぉっ!!」
愛しい人の声に、いつになくツナは声がはずんでいる。
というのも、2日前から山本が野球部の遠征試合に出掛けているのだ。
「何だよツナ、オレの声聞けてそんなに嬉しい?」
「うんっ!!」
「…っ/////」
いつもなら恥ずかしさから「べ、別にっ」なんて言ってしまうところであるが、2日ぶりに声が聞けた嬉しさを、今は抑えられない。
山本はからかってやろうといたずらっぽく言ったつもりが、ツナのそんな態度に逆に自分が照れてしまったらしい。
気を取り直すようにゴホン、と咳払いをし、会話を続けた。
「明日なんだけどさ、そっちにつくの14時ぐらいになりそーだ」
「そっか。じゃあ14時ぐらいに体育館裏で待っとくね」
「サンキュ!じゃあまた明日な」
「うんっ」
明日山本が帰ってきたら、お花見デートをするのだ。
(早くあいたいなぁ…)
2日会ってないだけで、もうずいぶん長いこと会っていないような気分だ。
ツナは明日への期待を胸に、眠りについた。
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明くる日の日曜日の午後。
ツナは体育館裏で山本の帰りを待ち焦がれていた。
そろそろ14時になろうかというとき、車が入ってくる音とともに、校門の方から黄色い声が聞こえてきた。
(あぁ、またか)
声の主は山本ファンの女子達である。
彼女達は試合の応援には必ずついていき、こういう遠征試合の場合でも見送りと出迎えは欠かさない。
熱心なのは結構なのだが、その度にツナは悩みを抱いてしまう。
(ホント、オレなんかが山本の恋人で、いいのかなぁ…)
声のする方を覗き込むと、案の定バスから降りてきた山本は、女子達に囲まれてキャーキャー言われている。
(オレなんかよりもずっと可愛いくて、山本につり合う女の子なんてたくさんいるじゃないか)
山本は自分のような冴えない男なんかよりも、普通の女の子と付き合うべきなんじゃないだろうか、とつい思ってしまう。
けれど―――
「わりーわりー、オレ人待たせてっから先に失礼するなっ」
惜しむ声を背に、山本はその場を後にして駆けだした。
体育館裏に向かう足音が聞こえてきた。
「ツナ、お待たせっ」
そうそう、その笑顔。
見ていると悩みもなんだかばかばかしく思えてくる。
きっとこれからも度々同じことで悩んでしまうのだろうけど、その度に、その笑顔が不安を取り去ってしまうのだろう。
そうだよ、どんなに可愛い女の子達に囲まれていたって、いつだって最優先に考えてくれていて、恥ずかしいくらいの好きの言葉と、愛情表現をいつだって送ってくれるじゃないか。
あんなにモテモテなのに、山本が選んだのはなんで自分なのかはやっぱり謎だけれども、自分のことを本当に大切に想ってくれているのは確かなのだ。
そして今、目の前にあるのは、大好きな人の、大好きな笑顔。
(あぁ、やっぱり、大好きだ)
気がつくとツナは、ガラにもなく山本に飛びついてしまうのであった。