ーBOOKー
□映画館
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「何かしめった感じのする映画館だったんですよね」
その日、大石さんは彼女とデートをしていた。
昼間だったせいか、館内に客は数えるほどしかいなかった。
ふたりは中央より後ろよりに座ったという。
「映画が始まってしばらくすると…」
妙なことに気付いた。
スクリーンではなく客席を向いている者がいる。
「初めは映画館の人だと思っていました。何か映写室と連絡しているとか、お客の様子を見ているとか…」
ところが本編が始まっても動こうとしない。
従業員なら他に仕事もあるはずで、ぼけっと座りっぱなしというのはいかにも不自然だった。