ーBOOKー

□八尺様
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とてつもなく長い一夜に感じたが、それでも朝は来るもので、つけっぱなしのテレビがいつのまにか朝のニュースをやっていた。
画面隅に表示される時間は確か七時十三分となっていた。


ガラスを叩く音も、あの声も気づかないうちに止んでいた。
どうやら眠ってしまったか、気を失ってしまったらしい。
盛塩はさらに黒く変色していた。




念のため自分の時計を見たところではほぼ同じ時刻だったので、恐る恐るドアを開けると、そこには心配そうな顔をしたばあちゃんとKさんがいた。

ばあちゃんが、良かった良かったと涙を流してくれた。







下に降りると親父も来ていた。
じいちゃんが外から顔を出して「早く車に乗れ」と促し、庭に出てみると、どこから持ってきたのか、ワンボックスのバンが一台あった。
そして、庭に何人かの男たちがいた。


ワンボックスには九人乗りど、中列の真ん中に座らされ、助手席にKさんが座り、庭にいた男たちもすべて乗り込んだ。
全部で九人が乗り込んでおり、八方すべてを囲まれた形になった。
「大変なことになったな。気になるかもしれんが、これからは目を閉じて下を向いてろ。俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうんだろうからな。いいというまで我慢して目を開けるなよ」

右隣に座った五十歳くらいのオジさんがそう言った。



そしてじいちゃんの運転する軽トラが先頭、次が自分が乗っているバン、後ろに親父が運転する乗用車という車列で走り出した。
車列はかなりゆっくりとしたスピードで進んだ。
おそらく二十キロも出てなかったんじゃあるまいか。


間もなくKさんが、「ここがふんばりどころだ」と呟くと、何やら念仏のようなものを唱えはじめた。



















「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」



















またあの声が聞こえてきた。

Kさんからもらったお礼を握りしめ、言われたとおりに目を閉じ、下を向いていたが、なぜか薄目をあけて外を少しだけ見てしまった。












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