精霊の唄(怨霊編)
□達成(全209ページ)
3ページ/209ページ
蘭花は腕を組んで、考えた。
(そうだよねぇ…。こんなに顔良くて優しい男、そうそういないよね…)
翔太がよく言っている、自分への言われよう。
女らしさの欠片もない。
耕治がどんなタイプの女の子が好きなのかは不明だが…。
蘭花は、取り繕ったり媚びを売るようなことが大ッ嫌いだ。
翔太に女ではないと言われてはいても、生き方を曲げる気は毛頭ない。
(耕治がアタシの生き方に否定するような奴なら、所詮はその程度の男なんだって諦めはつくだろうけど…)
彼が、そういう人間ではないと知ったから好きになった訳で…。
だから気持ちを打ち明けた。
(嫁…かぁ)
家を出る直前、祖母が寝言で言っていた。
(ばっちゃんは、アタシを嫁にやりたくないって思ってる。耕治はアタシを嫁に貰ってくれそうにないし…って、ちょっと話が飛躍し過ぎたかな)
「?」
(そもそも、アタシ……耕治に相応しいかな?)
両手を開き、見つめる。
(身長も…手も足も、男の織谷よりデカいんだよねぇ。料理も出来ないし、取り柄なんていっこもないし…)
「………………」
(嫌われてる訳じゃないのは分かるんだけど…………)
………やはり、果てしなく自信喪失した気分だった。
「お待たせしました〜」
注文したオムライスが目の前に置かれた。
「あ、先に頂いていい?」
「もちろん」
「いただきま〜す♪」
スプーンを入れると、ふわっと卵がとろける。
チーズたっぷり、チキンライスはバターの香り。
「美味しい♪♪♪ふわふわ♪♪♪どうやって見付けたんだい?こんな美味しい店」
「あの二人が地元人だから、やたら詳しいんだ。デートに行くと断ったら、幾つか店を教わってな。その内の一軒なんだ」
「なるほど。舌が肥えてそうだもんねぇ。納得だよ」
「お待たせしました〜」
耕治が注文したオムライスは、また変わっていた。
「いただきます」
「あれっ!?」
蘭花は驚いた。
オムライスにかかるソースが緑色だ。
「何それ!何で緑色!?」
「青野菜をデミグラスソースであえているようだ。こういう時でもないと野菜不足になるからなぁ」
「あ、岡崎がアレルギーなんだっけ。へぇ…珍しい料理だよね」
「蘭花、口開けて」
「?あ〜…………」
…ぱく。
食べさせてくれた。
「………あ!美味しい!野菜臭くない!」
「な?レパートリーに入れておこう♪」
料理を食べながら、学校のことや仲間の近況を話し…。
怨霊云々のことは、お互い話さなかった。
「うちのクラスは、いい奴ばっかりだよ。ただ…担任がめちゃめちゃ涙もろいけど」
「担任………誰だったっけ」
「日南田って女の先生だよ。で、毎朝ホームルームで出席を取った後でこうすんだ」
蘭花は唇に人差し指を当てて、もう片方の手で耳をすませる仕草を見せた。
「……で、岡崎の連絡事項を聞いて、終わり(笑)」
「何だそりゃ!そんなんでいいのか!?」
「日南田は言ってんだ。私の言うことは聞かなくていいから、岡崎先生の言うことは聞いておきなさいって。私みたいなオバチャンの言葉よりも、若い皆の為になるからって」
「職務放棄じゃ…」
「でも、皆、面白い先生だって。めちゃめちゃ慕われてるんだ。アタシも好きだよ」
「帰ったら英雄に話してみよう…。日南田…どんな先生なんだ…」
食事を終えて、少し経ってから店を出た。