精霊の唄(怨霊編)

□達成(全209ページ)
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蘭花は腕を組んで、考えた。


(そうだよねぇ…。こんなに顔良くて優しい男、そうそういないよね…)


翔太がよく言っている、自分への言われよう。


女らしさの欠片もない。


耕治がどんなタイプの女の子が好きなのかは不明だが…。

蘭花は、取り繕ったり媚びを売るようなことが大ッ嫌いだ。

翔太に女ではないと言われてはいても、生き方を曲げる気は毛頭ない。


(耕治がアタシの生き方に否定するような奴なら、所詮はその程度の男なんだって諦めはつくだろうけど…)


彼が、そういう人間ではないと知ったから好きになった訳で…。

だから気持ちを打ち明けた。


(嫁…かぁ)


家を出る直前、祖母が寝言で言っていた。


(ばっちゃんは、アタシを嫁にやりたくないって思ってる。耕治はアタシを嫁に貰ってくれそうにないし…って、ちょっと話が飛躍し過ぎたかな)

「?」

(そもそも、アタシ……耕治に相応しいかな?)


両手を開き、見つめる。


(身長も…手も足も、男の織谷よりデカいんだよねぇ。料理も出来ないし、取り柄なんていっこもないし…)

「………………」

(嫌われてる訳じゃないのは分かるんだけど…………)

………やはり、果てしなく自信喪失した気分だった。


「お待たせしました〜」


注文したオムライスが目の前に置かれた。


「あ、先に頂いていい?」

「もちろん」

「いただきま〜す♪」


スプーンを入れると、ふわっと卵がとろける。

チーズたっぷり、チキンライスはバターの香り。


「美味しい♪♪♪ふわふわ♪♪♪どうやって見付けたんだい?こんな美味しい店」

「あの二人が地元人だから、やたら詳しいんだ。デートに行くと断ったら、幾つか店を教わってな。その内の一軒なんだ」

「なるほど。舌が肥えてそうだもんねぇ。納得だよ」


「お待たせしました〜」


耕治が注文したオムライスは、また変わっていた。


「いただきます」

「あれっ!?」


蘭花は驚いた。

オムライスにかかるソースが緑色だ。


「何それ!何で緑色!?」

「青野菜をデミグラスソースであえているようだ。こういう時でもないと野菜不足になるからなぁ」

「あ、岡崎がアレルギーなんだっけ。へぇ…珍しい料理だよね」

「蘭花、口開けて」

「?あ〜…………」


…ぱく。


食べさせてくれた。


「………あ!美味しい!野菜臭くない!」


「な?レパートリーに入れておこう♪」


料理を食べながら、学校のことや仲間の近況を話し…。

怨霊云々のことは、お互い話さなかった。


「うちのクラスは、いい奴ばっかりだよ。ただ…担任がめちゃめちゃ涙もろいけど」

「担任………誰だったっけ」

「日南田って女の先生だよ。で、毎朝ホームルームで出席を取った後でこうすんだ」


蘭花は唇に人差し指を当てて、もう片方の手で耳をすませる仕草を見せた。


「……で、岡崎の連絡事項を聞いて、終わり(笑)」

「何だそりゃ!そんなんでいいのか!?」

「日南田は言ってんだ。私の言うことは聞かなくていいから、岡崎先生の言うことは聞いておきなさいって。私みたいなオバチャンの言葉よりも、若い皆の為になるからって」

「職務放棄じゃ…」

「でも、皆、面白い先生だって。めちゃめちゃ慕われてるんだ。アタシも好きだよ」

「帰ったら英雄に話してみよう…。日南田…どんな先生なんだ…」


食事を終えて、少し経ってから店を出た。
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