精霊の唄(怨霊編)

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蘭花は、最寄りの服部区駅から電車に乗って原見駅へ向かった。

待ち合わせ場所は、駅前の噴水広場。

時計台の時刻は、午後12時50分。

約束の時刻は13時丁度。


「早すぎたね…」


時計台の下に立って待った。

行き交う人々が、チラチラとこちらを見ながら通り過ぎて行く。


こういうことはしょっちゅうある。

身長が高いせいだ。


今更、気にもならない。


(晴れて良かったぁ)


雲は多いが、太陽が眩しい。


(また映画に行こうか…。あ、その前にゴハン食べよう。何処で食べるか…うーん…)


等と考えながら、携帯電話を開いて見つめる。


時間は刻々と経って…。


12時55分。


蘭花は肩を叩かれて振り向いた。


「あ!来た!」


耕治の顔を見て、はしゃいでしまいたいのを抑える。


「待たせて悪かった。飯は?」

「まだ!何処かオススメはあるかい?」

「オススメ?うーん………」


耕治は辺りを見回し、思案している。


(今日こそは甘えたい…甘えたい…)

「あそこの…………蘭花?」

「へっ!?な……何だい!?」

「あそこでいいか?」

「ああ!行こう行こう!」


小走り
に駆けて行く蘭花を見て。


(やはり可愛いなぁ…。今日こそは、きっかけを与えてやらないと)


耕治はそう思いながら笑いを堪える。


「は〜や〜く〜!」

「はいはい。転ばないようにな〜」


駅前のオムライス専門店に入った。

席に着いて、オーダーを通して。


「あれから黒い奴を見ていないか?」


耕治がそう訊いた。


「こっちは大丈夫だよ。そっちは?」

「そういったことは一切ないんだが…翔太と蒼伺さん、聆笥が実は親戚同士だったとか。色々聞かされて…」

「は!?何で!?って……何か、本当にまたごちゃごちゃしてるんだね…。学校に行ったら話を聞くよ」

「ありがとう…」

「大丈夫かい?無理しなくていいよ?」

「いや、疲れている訳ではないから。むしろ、面白くなってきたなぁ…と」

「そ…そうなんだ…」

「蘭花は?辛くないか?」

「全然。辛くはないけど…苦戦したじゃないか。ちゃんと皆を守れるかな…って不安はあるよ」

「なるほど…」

「アタシらが直接倒せたらいいけど、倒すのは織谷にしか出来ないだろう?それが悔しいというかさ」

「そうだな…。俺達は弱らせることしか出来ない。蘭花は勇敢だなぁ…
……」

「耕治は怖いのかい?」

「ああ、怖いな。君が怪我をしてしまわないかどうか、心配だ」


頬杖ついて、じ…と見つめられる。


「…心配してくれんだ」

「当たり前じゃないか。痕にでもなったら嫁に行けなくなるぞ」

「………ッ」


考えてみればそうだ。

交際を続けたからといって、ゴールインするとは限らない。

亜里沙が言った、自分へ惚れ込んでいる…という話は、亜里沙や翔太の思い込みかも知れない。


自分に自信を持っていた訳ではないが、生まれて初めて果てしなく自信喪失した気分だった。
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