精霊の唄(怨霊編)
□天国と地獄(全133ページ)
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通学鞄に宿題を詰め込んで、部屋を出る。
お菓子とお茶を盆に乗せて用意し、部屋に戻ると亜里沙が腰掛けていた。
「はい、どうぞ」
盆を置いて向かい側に腰掛ける。
「どうもありがとう。洗濯機を回しておいたんだけれど、乾燥機付きなのね。翔太君って…意外にお金持ち?」
「さあ…。親の収入は気にしないことにしてんだ。金額が分かった所でどうしろっつーの…って具合」
「まあ、確かにね…。学校に行かせてもらっているだけ有難いわね」
「ああ」
「ふふふ。いただきます」
亜里沙はお茶を飲んで、一息つく。
「亜里沙さんの趣味は何?」
「私、刺繍が好きなの。今度、お部屋に招待するわ。気に入ったものを飾ってあるの」
「刺繍!器用なんだな…。楽しみだ♪」
「翔太君の趣味は?お勉強?(笑)」
「何で………?(汗)俺、体を動かすのが好きなんだ。最近ちっとも機会がないんだけどな…」
「運動かぁ。私も機会がなくなっちゃったけれど、これでも中学生時代は陸上部だったのよ?」
「Σマジで!?そういえば、足速かったもんなぁ…。俺はサッカー部だったけど、陸上部にはかなわねぇや」
「あら。大野と同じなのね」
「え
?」
「大野もサッカー部だったのよ」
「初耳です」
「あら、そうなんだ」
「そういやぁ、アイツも足速かったもんなぁ…」
「うーん…アイツは特別なのよね」
「え?」
「サッカー部を本業にして、陸上部やバスケ部、テニス部の応援に呼ばれていたの。アイツ、体力馬鹿だから運動部からのスカウトがひっきりなしだったのよ。本人は多少迷惑ながらも、必ず結果を出していたわ。昔から嫌な男よ」
「……へぇ……」
「翔太君。またヤキモチ妬いてくれてるの?」
「ああ、そうだよ。あなた…分かっててやってんだろ」
「段々と学習してきたわね…。その通りよ。だって、可愛いんですもの♪」
「か…可愛い…?」
翔太は少しショックを受けてうつ向いた。
「何だか、弟がもう一人出来たみたい♪」
「お………弟???」
翔太は慌てて顔を上げた。
「亜里沙さん、弟いるのか?」
「ええ。下に二人いるわ」
「弟………歳いくつだ?」
「中学二年生と小学校六年生ね」
(俺は…そんな小さい弟と同類に見られているのか!?)
「翔太君?」
(言われてみれば…そうだな。俺への接し方が、まるで弟を可愛がるみたいな…)
「ひょっとして…怒っちゃった?やりすぎちゃったね」
(……男として認めてもらうには……)
翔太は立ち上がり、デスクの引き出しを開けた。
以前、亜里沙に貰った避妊用具が入っている。
「翔太君…?」
(……でも……)
使い方が分からなければ意味がない代物。
「…俺は亜里沙さんが好きなのに…あなたは俺を幼い弟としか見てくれていなかった」
「…ごめんなさい」
「…でも、俺の場合…それでいいのかも知れない」
「そうなの?どうして?」
「どうやったって、あなたに敵うはずがないもんな」
亜里沙は立ち上がり、翔太の手元を覗き込む。
「本当にいいの?後悔しない?」
「後悔するならとっくにしているよ。ただ…初めてだから手加減出来ないかも知れない」
「…いいわ」
亜里沙は避妊用具を手にして封を切った。
「アイツに負けないような男になりなさいね」