精霊の唄(怨霊編)
□天国と地獄(全133ページ)
2ページ/133ページ
なかなか宿題は終わってくれない。
忌まわしい事件のお陰で、授業が遅れているのが原因だ。
宿題を配布することで、その遅れを取り戻そうという先生達の意見が合致したのだ。
唯一、反対したのは英雄だけだったらしい。
(だからって、習ってない所まで宿題に出さなくたって…。もはや予習じゃねぇか)
今日、丸一日こそは亜里沙と過ごすんだと決めて教科書や参考書を見ながら頑張っていた。
フッ…と耳の穴に風が当たり、翔太は身震いした。
また悪霊か!と振り向く。
「翔太君。お邪魔します♪」
「あ…ああ…亜里沙さん!!!!!?」
約束の時間まで、まだ二時間はある。
「あなたのご両親と、うちのお母さんが外で世間話をして…お母さんが私を紹介してくれたの。そうしたら、あなたのご両親が快く上がりなさいって」
「父ちゃん…母ちゃん…何やってんだ(泣)ごめん、亜里沙さん…。まだ部屋の片付けが…」
「男の子らしくていいじゃない」
亜里沙はクスクス笑った。
翔太は基本的に大雑把。
パジャマや下着、制服は脱いだら放り出していることが多い。
今日しなくていいことは明日に回す。
なので…。
昨夜は疲れ
ていたので、掃除は翌日しようと、そのまま眠ってしまい…。
約束の時間ギリギリになってから片付けようと思っていたのだ。
「ち…ちょっと、部屋を出てくれないかな…」
「ひょっとして、ベッドの下にはエロ本がぎっしり?(笑)」
「そうそう…って、違う!」
「あら、一冊くらい持ってないの?」
「すみません…一冊も持ってないんです…買うのが恥ずかしくて…って、何の暴露だよ」
「ふふふ。別にやましい物なんてないのなら、私がお片付けしてあげるわよ」
「いや、それは…」
「ふふふ。文句ある?」
…顔は微笑んでいるが…声が笑っていない…。
「…あなたに逆らうのはやめておきます」
「よろしい」
亜里沙が部屋を片付けてくれている間に宿題を終わらせる為に頑張る。
しかし、やはり限界があった。
(習ってないのがなぁ…。こりゃあ、聆笥でも無理だろうな…)
頼みの綱の聆笥は、初めてのアルバイトで疲れているだろう。
仕方なく、翔太は携帯電話を耳に当てて耕治と通話を試みた。
『はいはい?』
「おはようさん。宿題やったか?」
『今、蘭花の部屋で一緒に片付けている最中なんだ。しかし…これは無理だ
ろう』
「お前もか…。聆笥はああだし、どうすんべ」
『蒼伺さんと英雄がいればいいんだがな…』
「えっ?いないの?」
『蒼伺さんはアルバイト、英雄は仕事だ。英雄に至っては昨日から帰って来ない』
「な…何で…?ヨッシーどうしたんだ?」
『蒼伺さんが言うには、ほら…あの山下の件が原因らしい。山下とつるんでいた田中とか、あの辺りが悪霊に操られて何人か怪我させたろ』
「そ…そうだな…」
『悪霊云々を抜きにして、奴らが退学させられるかも知れないんだと。英雄は真面目だから、相手の親御さんや山下らの親御さんに頭下げに回ってるんじゃないかって』
「有り得る話だな…。分かった。取りあえず、習ってない所は放っておくか?」
『だな。明日、塾に行ってる奴にでも訊こう』
「悪いな、デートの邪魔して」
『いや、構わない。じゃあな、また明日』
通話を断って、散らかった机の上を片付けた。