精霊の唄(怨霊編)

□理由(全95ページ)
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予鈴のチャイムが鳴り、英雄が教室へ入って来た。


「ヨッシー。残念な知らせがあるんだ」

「何かあったのか?」


翔太は紙を手渡した。


「耕治の机の中に入ってた」

「……何だ……これは………」


生徒全員が席に着くと、英雄は出席簿を開く。


「…出席を取るぞ。大野」

「はい」

「御伽裡」

「はい」

「織谷」

「はい」

「川木」

「はい」

「久那」

「はい」


……点呼が終わり、英雄はうつ向き、出席簿を閉じて…。

バァアンッ!!!!!

教壇に叩き付けた。

その音で生徒全員の肩がビクッと上がる。


「…誰だ…とは訊かない」


英雄は紙を掲げた。

その内容を見て、半数以上のクラスメートの息を飲む音が聞こえた。


「大野はな…織谷と御伽裡がいなければ死んでいたんだぞ。それは先日話しただろうが」


翔太は驚いた。

ここまで感情を剥き出しにして怒る英雄を初めて見た気がした。


「こんな無神経なことが出来るとは…。俺は、このクラスの奴を疑いたくない…」


英雄はバァアンッ!!!!!と黒板を殴った。


「俺は……こういう冗談が一番嫌いなんだよ!!!!!ヒトが死にかけた
んだぞ!!!!!?まず、無事に顔を見ることが出来て喜ぶべきじゃないのか!!!!!?」


…恐らく、二年生全クラスに聞こえたであろう。

英雄は大きく息を吐いた。


「…連絡事項は、特にない…。ヒトの命を粗末に扱える神経は、さっさと捨てるように心掛けろ。以上!」


そして、出席簿と一緒にあの紙を携えて教室を出て行った。


「…平気であんなことを書けるなんて…どうかしているよね」

「うん…。大野君は、行方不明になっても帰って来た…」

「怖かったけど…岡崎先生、正しいわよね。私、許せないわ」


耕治への気遣いの言葉がわやわやと聞こえて来る。


「…皆、優しいな。生きていて良かった」

「……イライラすんなぁ……。学校に爆弾を仕掛けてやりたい気分だ…」

「翔太君…怖いよ…」

「…?」


耕治は携帯電話を取り出して耳に当てる。


「はい」

『キャシー本店の支配人、日向聖と申します。今、お電話大丈夫ですか?』

「キャシー…支配人…!?い…いや…これから授業なので…昼休みに折り返してもよろしいでしょうか…?」

『そういえば…そうだったかな。申し訳ない。いつでもいいから必ず連絡下さい。それじゃあ
、授業頑張ってね』


プツ…と通話は断った。


「ん?キャシー?」

「ああ…。清水先生がしつこいから診断書を持って行ったんだ。労災保険のことかも知れない」

「良かったじゃん。治療費にかなり金かかったんだし」

「ああ…。やれやれ…病院なんて行くものではないな」

「怪我をしなきゃいいんだよ…」

「お二人、先生が来ましたよ」


聆笥の言葉で、二人は教科書やルーズリーフを机上に置いた。
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