精霊の唄(怨霊編)
□出会い(全77ページ)
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翔太はふと気付いた。
(そういえば、大野って…始業式から昨日までいなかったよな…)
あれだけ体が大きければ、一目で気付くはずなのだが…。
今日、見かけるまで存在を知らなかった。
(休学してたのかな。にしても…)
既にグループが出来上がってしまっている時に学校へ来た彼は、不運としか言いようがない。
しかも、今日まで名前を聞いたこともなかった。
(何だろう。この違和感…)
何だか胸がもやもやした。
四時限目、現代社会。
大野は翔太の左隣の席だ。
翔太が横目で見ると…。
(!?)
大野はノートにシャーペンを突き立てたままうつ伏せになっていた。
現代社会の教師は、ハゲ頭の眼鏡の爺さん。
鋭い眼光が向けられている。
この先生は、居眠りをしている生徒の頭を教科書でぶん殴る。
「おい、大野っ」
そう必死に囁き、肩を揺さぶる。
大野は半目を開けて顔を上げた。
「……よろしい」
爺さん先生は頷き、難しい説明を始めながら黒板に字を書いていく。
翔太の肩が聆笥によって叩かれた。
振り向くと、親指を立てたのだ。
「グッジョブ♪」
翔太は授業を聞いてい
るフリをして、そ…と様子を伺う。
大野はノートを取っている。
(真面目…なんだろうか。どんな奴なんだろう…)
チャイムが鳴った。
「今回はここまでだ」
次々に生徒達の「やっと終わった」という溜め息や屈伸の声が聞こえる。
翔太は肩に手を置かれた。
「さっきはありがとう」
それだけを言うと、大野は参考書と包みを手に教室を出て行った。
…優しい声だった。
「翔太君。あの方は、悪い人ではないようですね」
聆笥がお弁当の包みを取り出しながら言った。
「まだ何とも言えないけど…」
翔太は英雄にメールを送った。
“大野の情報を開示してくれ”
しばらく経ってからメールが返信された。
“大野耕治。
家族は既に無く、親類もいない…とのことだ。
現在、アパートで独り暮らしをしている。
三学期の後半から地方へ働きに出ていたが、事故により交通機関が封鎖されていた為に公休扱いとなっていた。
二回留年しており、今年留年すれば強制退学となる。
留年した理由は、自分で聞いてくれ。
良ければ仲良くしてやってほしい。
悪い子ではないから、その辺は安心してくれて構わない”
「…なるほどね…」
翔太は携帯電話の画面を聆笥に見せた。
「独り暮らし…ですか」
「偉いよな…。家賃を払う為に働かなきゃならないのに…それでも学校に来てさ」
翔太はアパート住まいの苦労を知っているので、チクチクと胸が痛んだ。