精霊の唄(怨霊編)
□敵視(全21ページ)
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新しい教科書や分厚い辞書、ノートやルーズリーフ、プリントの束を配布してもらい、全員が名前を書いて行く。
翔太と聆笥は必要な分だけ鞄にしまい、辞書等の重い物は机の中に入れた。
「授業は明日からだ。遅刻するなよ〜」
クラスメート達が教室を出て行く中。
翔太は新任の霧下という男性が気掛かりで、生徒全員が教室を出るまで見守っている英雄の肩に手を置いた。
「なぁ…。新任の霧下の情報、何か持ってない?」
「持ってる所か…あいつは高校からの親友なんだ」
そんな英雄の言葉に驚いた。
「じ…じゃあ…」
「お前の生い立ちを聞いてから気にはしていた。あいつの頼みでな」
英雄は溜め息混じりに苦笑した。
そして、教室を見回して、生徒が翔太と聆笥だけになったのを確認すると…。
「心配するような奴じゃないと言ったんだがな。よほど弟のことが気になって仕方なかったんだな」
そう、声を潜めた。
「蒼伺兄ちゃん…。やっぱり、あの霧下は…」
「霧下蒼伺(きりしもそうし)。間違いないよ。お前が小さい頃に、親の離婚のせいで生き別れた実の兄だ」
翔太が驚きのあまり言葉を失った傍らで、英雄は人差し指を唇に当てて聆笥を見た。
「在学している生徒の肉親が教師だと、色々とうるさいからね。秘密だぞ」
「それは承知しています。あの…それで、どうするんですか?会いに行くんですか?」
「当然だろう。な、織谷」
翔太は少し戸惑いながらも頷いた。
「そんなに緊張するなんざ、お前らしくもない」
「う…うっせぇな…。えっと…もう10年以上も離れてたんだから…し…しょうがねぇじゃん…」
「う〜ん…。どうやって弄ってやろうかと考えていたんだが、辞めておくよ。腹がよじれるくらい笑い死にしそうだから」
「おまッ…人の心境をどう…」
「ハッハッハ、冗談だ。それじゃあ、行こうか」
三人は教室を出て、英雄が誘導する。
保健室に赴いたが、不在のようだ。
「おかしいな。織谷、ここで待っていなさい。御伽裡、おいで」
「あ、はい。翔太君、後でね」
聆笥と英雄が保健室を去ってすぐ。
『保険医の霧下先生、保険医の霧下先生。至急、保健室へお戻り下さい』
英雄の声で放送が流れた。