精霊の唄(怨霊編)
□五大霊能力巡礼の儀式:後編(全150ページ)
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本鈴が鳴ると、英雄が教室に戻って来た。
「村上先生、ちょっと聞いてもらってもいいですか?」
「どうされたんですか?何か問題が?」
「今、チョークを取りに備蓄倉庫に行ったんですがね…。どういう訳か、黄色のチョークだけ品切れみたいでして…」
「あ、そうなんですね。それでは、これを…」
村上教諭は、白衣のポケットから取り出したチョークケースから黄色のチョークを取り、それを英雄に手渡した。
「どうもすみません…。さあ、皆!授業を始めるぞ!」
授業はいつも通りに行われた。
村上教諭は生徒たちを見守り、また時々、英雄の授業を聞いて頷いていた。
翔太は…。
予習という習慣が身について来たお陰か、授業を苦痛に感じなくなってきていた。
「ここまでで分からないことがある子はいるかな」
「はい!」
意外にも、椎崎が挙手した。
「はい、椎崎」
「そこの、上から三列目の計算式。間違ってないか?」
「えっと…」
英雄は資料を見て、黒板を眺めて…。
黒板の片隅で計算を始めた。
「いや、これで合ってるな。ひょっとして、ここかな?」
上から二列目の計算式の箇所を示され、椎崎は「あ!」と声を上げた。
「椎崎はよく気付いたな。ここは、誰でも引っかかりやすい所なんだ。この引っ掛かりを回避する方法は…」
その説明を受けた全員が頷いていた。
「よし。じゃあ、次は…」
再び授業は進行した。
そして、授業終了。
「1限目の授業は、これまで!2限目は生物の授業だから準備するように!」
「え!?数学で終わりじゃねぇの!?」
翔太が言うと、クラスメート達は机に額を打ち付け…。
村上教諭は額に手を当てて目眩を堪えているし…。
英雄に至っては、教壇の裏側に倒れ込んでしまった。
「え…皆、どうしたんだ…?」
「あ……あのねぇ……」
聆笥は我慢ならず、立ち上がって翔太のネクタイを掴んだ。
「だから村上先生の存在に疑問を持ってたんだねぇえぇえ…!」
「な…なんだ…?」
「昨日言ってあったでしょッ!!!明日は数学と生物だからちゃんと支度してから寝るようにって!!!」
「あー…悪ぃ。ここ最近、寝不足だから聞いてなかったかも…」
「もうやだこのヒト………」
聆笥は席に着いて、しくしく泣いてしまった…。
かろうじて教壇を支えに立ち上がった英雄は…。
「俺の連絡事項…そんなにわかりにくい…?」
クラス全員に言うと、翔太以外の全員が首を横に振った。
「と……ともかく、休憩時間だ!次の授業の準備を!うぅ……」
「お…岡崎先生……お気をしっかり持って……」
英雄と村上教諭は、肩を支え合ってしくしく泣いてしまったようだ…。
「やっぱ、平均睡眠時間3時間はきっついなぁ」
「あー…翔太は家事全部やってるから…必然的にそうなっちゃうのか…。なのに、僕……」
「いーんだよ。こりゃあ、帰って寝ないとヤバいな…」
「しかし、翔太。今回は本気で頑張らなければ…亜里沙との……」
耕治がボソっと囁いてやると、翔太は聆笥に手を合わせた。
「教科書見してッ!!!」
「それは一向に構わないけど…ノートはどうするの…?」
「なんとかなる…。なせばなるなにごとも…」
「はあ…」
チャイムがなると、村上教諭が教壇に着いた。
「それでは、授業を開始しますね」
そこまでは良かった。
良かったのだが…。