永遠の存在U

□二卵性双生児(全10ページ)
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光輝の双子の兄は…野杉慶太。


光輝は大学生、慶太は短大を卒業したばかり。


「また描いてるのか?」


風呂あがりの慶太が、カンパスにサカサカと炭棒を擦る光輝の手元を覗く。


「これは課題なんだよ。明後日までに仕上げなきゃ」


「ふぅん…。出来上がったら見せて」


慶太はタオルで髪を拭きながら部屋を出る。


光輝はなおも炭棒を動かす。


光輝は美大生なのだ。


完成させた絵は最近、出来るだけ慶太に見せるようにしている。


「ここ、もっと影を濃くすれば良いんじゃないか?」


何気なくそう言われて、仕方なくそうすると…見事にその絵が受賞された経緯があった。


たまたま…かも知れないが、それから腕が上がっているような気がした。


どうして絵を描くのが好きになったのか。


それを人に訊かれると困る。


物心ついた時から描いているのだから…。


だが…心当たりがない訳ではない。


「…あれは一体、誰なんだろう…」


顔も知らない…名前も知らない、女の人。


幼い頃、その人に酷く甘えていたような気がする。


(…母さんは死んだって言ってた…。父さんと、どういう関係なんだろうか…)


いつか、その女の人をカンパスに収めるのが使命のように…。


手は自然と動く。


「光輝。先に寝るぞ」


「あ、うん。おやすみ」


一度、絵を描き出したら完成させるまで休まない。


兄はそれを寂しく思って、あんなチャラチャラした性格になったのだろうか。


そう考えたこともあるが、明らかに違うだろう。


光輝としては、せめて…昔の半分には戻ってほしいと思っている。


見ている限り、不可能に近いが…。


(…何かきっかけが必要なのかもな。何とかしないと、父さんが可哀想だ)


父親は自分達に「立派な人間になれ」と言っている。


自分の責任は自分でと言うが、その意味を履き違えるな。


それが教えだった。


なのに…酷い時は、慶太が泥酔して暴れて、父親が警察に呼ばれて平謝りして、書類送検には至らなかった…ということがあった。


過去、最悪の記録がそれだ。


それ以上のことが起こる前に、何とかしなければ…と考える。


(…そうだ…。小父さんと小母さんに相談してみよう)


父親が留守の今…他人を頼ることで光が見え始めた。


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