精霊の唄(怨霊編)
□五大霊能力巡礼の儀式・前編(全120ページ)
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―――6月4日。
マンション・アカザハイツ。
四里府にある数少ないマンションの1つで、椎崎はこのマンションの二階で生活している。
窓の外からは、鉄橋が見渡せる。
鉄橋の下にはブルーシートの住居があり、そこでは三人の男女が暮らしていた。
かつて、自分もそこで生活をしていた。
それを今、椎崎が英雄に話し終えたばかり。
「この辺りはホームレスが多いんだわ。だから学校も小学校くらいしかないし、繁華街もなくて栄えていないんだよ」
「まさか、コンビニが一軒もないとは思いませんでした」
「コンビニはあるにはあったけど…ほら、廃棄の弁当やらを盗むホームレスもいるから、物騒だからって…な」
「……きっと、俺達のように免許や資格を持っている人もいると思います。なのに…失業者というだけで行き場もなく………」
英雄は、初めてホームレスというものをこうして教わい…。
やるせない気持ちになった。
「俺達は何かをした方がいいんでしょうか」
「やめておけ。やるんなら、それこそ粉骨砕身の思いでやらなきゃ途中でやめられねぇことだからな。中途半端な、軽い気持ちでやれることじゃねぇよ」
「……………」
「お前の気持ちは分かる。俺も、極力は何かしら与えたりしてんだけどな…。警察がまず決めつけやがる。何処から盗んで来たんだ、とな」
「な…」
「それに…今は直接的に手を貸す訳にはいかねぇんだわ。これを見てくれないか」
椎崎は英雄を腰掛けさせ、書類を示した。
「これは…」
「吾川高校に死体が頻発していた時の、生徒の死亡者数。及び、死因の調査結果だ」
「神田優は…殺害された。曽根山も殺害された…。しかし、異様に多いですね…。特に三年生が」
「混乱に乗じて、自殺していった生徒もいたんだよ。皆が悪霊だ悪霊だ騒いでる間にな…」
「…………!」
「俺は…監査員。だからホームレスに直接的に関われねぇ…」
「……椎崎さん……」
「……あ、コーヒー飲んでくれよ。折角なんだし、ゆっくりしてけよ。今日の家庭訪問は俺で最後なんだろ?」
「え…ええ。助かります」
今日から9日まで、家庭訪問だ。
英雄は基本、生徒のお宅には入らず玄関先で要件を済ませる。
椎崎が話しておきたいことがあると言ったので、こうしてお邪魔させてもらったのだが…。
「はぁ…美味しい…」
「お前…ここ3日くらいで、体が小さくな
ったんじゃねぇか?彼氏と何かあったのか?」
「彼氏……とは特に。皆があんな目に遭っているのに、俺には何もしてやれないと…そう考えたら、食べるのも億劫になってしまって…」
「……大野は未だに眠り姫か」
「はい…」
「毒が塗られた糸巻き機の針に指が刺さっただけで、眠り姫は永久に眠りについた。けど、最終的には白馬の王子が迎えに来て目覚めるんだ。大野は大丈夫だろ。殺しても死ななそうな体つきしてんだしさ」
「そうありたいと願っています」
「織谷は?修業するっつって休学してんだろ?生きてんの?」
「修業の内容は、外部には洩らしてはならないと掟があるみたいで…音信不通なんです」
「そうか…。織谷は悪霊と戦える唯一の手段なんだ。いや、それよりも…早く顔が見たい。年下なのに、あいつと話してると本気で高校生やってる気分になって面白いからな」