精霊の唄(怨霊編)
□一蓮托生(全196ページ)
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―――5月24日。
リビア・翔太私室。
「やれやれ…酷い目に遭った」
ようやく退院出来た翔太。
荷物をベッドの側に放り投げ、着替えを持って入浴を始めた。
「翔太はえらく長いこと入院していたな。ただの検査入院ではなかったのか?」
調理をしながら、耕治が食器をテーブルに並べている聆笥に訊いた。
「えっとね…」
下剤のお陰で、翔太の腸内からは便がなくなった。
便秘はスッキリ解消されて、普通に食事もして、超強力な栄養剤も飲んでいた。
にも関わらず、どういう訳か。
血液中の血糖値がなかなか上がらず、具合が悪いままだった。
清水医師の診断によると…。
『織谷君は、膵臓の働きが普通じゃないみたいだ』
『普通じゃない!?』
『膵臓からインスリンが分泌されて、そのインスリンがブドウ糖を吸収してエネルギーに変えるんだけどね』
『うん…』
『吸収するべきブドウ糖が血液中にほとんど存在しないんだ。全部、インスリンに吸収されてしまっているから血糖値がなかなか上がらないんだね。だからしんどいんだ』
『じゃあ…どうすれば…』
『糖分を過剰に摂取するしかないね。ブドウ糖を点滴してあげる
けど…多分、繋ぎっぱなしにしていても点滴だけじゃあ追い付かないだろうねぇ』
『でも、あんまし甘いモンばっか食うと糖尿になるよな?』
『君の膵臓はおかしいんだ。だから大丈夫』
『…言っちゃったよ…。おかしいって言っちゃったよ…』
『あ、果物は食べ過ぎると肥満になるからね。果糖って、血糖値に直接影響しないんだ。中性脂肪ばかりが増えて、肥えていくだけだからね』
『わ…分かった…。頑張る…』
聆笥に頼んで、バセラのケーキを買って来てもらって食べていたお陰で。
血糖値は回復・数値は維持され、無事に退院出来た。
話を聞いた耕治は、皿に料理を盛った。
「羨ましい体質だ。バセラのケーキをそんな大量に食えば、糖尿になって当然なんだけどな」
「摂取したそばからインスリンがブドウ糖を全部もってくから、翔太には丁度いいオヤツなんだって清水先生が仰ってたよ」
「…俺はバセラのケーキと果物で肥えたのか…。というか、果物は太るのか」
「みたいだね」
「オヤツ代わりに果物を食うのが日課なのにな…。ダイエットしなきゃな…」
「……そうした方がいいよ」
聆笥は耕治の背中を見つめ、苦笑した。
「肩幅も
横幅も、英雄さんと同じだよ」
「最悪………。あの寸胴と同じなんて……悪夢だ……(泣)」
「大丈夫だよ。まだ平均体重圏内なんでしょう?まだ間に合うよ」
その時、風呂場から。
「聆笥ーッ!!!!!耕治でもいいけど、石鹸がねぇわーッ!!!!!」
「はいはい。忘れてた」
耕治が入浴中の翔太にボディーシャンプーを手渡す。
「サンキュー。っとに…お前、ちょっと見ない間にマジでデブったよな。何食ったらそこまでなんだ?」
「どうもバセラのケーキと果物が原因だったようだ。翔太はおデブが嫌か?」
「別にそうじゃねぇけど…ちょっと見ない間にデブんなったってのが問題なんだよ。体壊すぞ」
「やれやれ…」
耕治は再び調理を再開。
それを聆笥が微力ながらも手伝う。