精霊の唄(怨霊編)

□前途洋々(全122ページ)
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5月12日、土曜日。

午前8時の織谷宅にて。


「台風上陸とか…。有り得ねぇよな」

「うん」


今日は土曜日なので休校。


翔太と聆笥は、自分達の洗濯物をリビングに干している最中だ。

制服もシャツもネクタイも、寝間着や普段着やパンツも一緒に洗濯機にドボンして洗ったのだ。


「ねえ、翔太。シャツの襟の黄ばみなんだけど、翔太の言う通り漂白剤で磨いたら、ほら。すっかり真っ白んなったんだ」

「良かったじゃん。乾いたらアイロン掛けを教えてやろうな」

「うん♪」


聆笥と生活を始めて、そう日は経っていない。

だが、以前、泊まりに来ていた時とは違う生活習慣を発見出来た。


まず、聆笥は料理が一切出来ない。

米を洗うよう頼んだら、このお坊ちゃんは食器用洗剤で米を洗ったのだ。

お陰で白飯は泡立ち台無しに………。


それと、掃除や洗濯が出来ないこと。

洗濯機の操作はもちろんのこと、部屋を掃除機で掃除してくれと頼んだら……。

まあこのお坊ちゃん、掃除機を使ったにも関わらず…。

絨毯の所々はザラザラ、部屋の角には埃が残るわ。


用事を頼む度に、翔太は一から家事のことを教える羽目になった。



が、楽しい。


これから朝食を取りながらまどろみ、テレビを観て、少し社会勉強をしようと思っていた。


「僕って…取り柄がないよね」


トーストをかじり、聆笥は言った。


「んなことねぇって。聆笥は色んなことを知ってるし、絵がめちゃくちゃ上手いじゃん。まあ…家事が出来ないことには驚いたけどよ」

「母様や家政婦が全部してくれていたからね…。僕はする必要ないって箱入り同然に育ったから」

「やっぱりお坊ちゃんだなぁ。これから色々と勉強しないとな。俺もまだ知らないことが多いし」

「うん。何だかごめんね…」

「謝るなよ。あ、ちゃんと足りるか?まだハムとか冷蔵庫にあるぞ」

「ううん。大丈夫だよ。ありがとう」


テレビを観ながら談笑していると、翔太の携帯電話が鳴った。

亜里沙からのメールだ。


“おはよう♪起きてる?

今夜6時に家に来てね♪
お母さんと腕によりをかけてご馳走を作るから!

お父さんもお母さんも、凄く楽しみにしてるわ♪”


今日は、亜里沙の家で会食の日。

翔太は早くあの親父さんと話をしてみたいと楽しみだった。


「耕治は北沢ん家で世話になるんだっけ。二人、何の用事で出掛けたのかな


「昨日、夜中に英雄さんからのメールが受信されてたみたい。ほら…こないだ村上先生に脅迫されて強要された二人の遺書があったじゃない」

「…ああ、ヨッシーが隠していたやつか」

「うん。その件と、悪霊騒動で4人が自主退学したじゃない」

「山下達な……」

「それらのことが教育委員会にバレて、出頭命令が出たんだって。更に、山田達のことでも追求されそうだとも言ってたよ」

「……兄貴は?付き添いか何かか?」

「ほら…わざと怪我をして取り入ろうとする女子が沢山いたじゃない」

「……ああ……」

「どうなってるんだ、怪我人が多すぎるだろう…ってことを言及されたのと、聖霊倶楽部についてだね」

「!」

「聖霊倶楽部の主旨なんて説明しても誰も信じないだろうから、煌蓮や擂駕のことは言わないでおく…って」

「…そっか。大丈夫かな…」

「クビはないと思うけど、何らかの処罰は免れないかもね。本当、心配だね…」


外は暴風雨。

風は唸り、雨は窓や地面を叩き付け、道路には小川が出来るくらい悪天候だ。
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