精霊の唄(怨霊編)
□理由(全95ページ)
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───世見月駅前、キャシー店内。
「マスター・日向!お帰りなさい!わざわざ足労願って申し訳ありません…」
「ただいま、ワタリさん。それで…怪我をしたという少年は?」
「完治するまでシフトフリーのはずだったんですが…」
「どうかしたの?」
「その…給料の保証は必要ないから辞めると…。それっきり連絡がないんです」
「そうか…。診断書は?」
「ここに…」
ワタリと呼ばれた男性は封筒を手渡す。
内容を読んで、日向と呼ばれた若い男性は真紅の長髪を掻き上げた。
「…国立病院…ね。分かった。後は任せて」
「すみません…宜しくお願いします」
日向は二階の支配人室に赴き、デスクに向かってパソコンを叩いた。
「えっと…ああ、この子か。あれっ?この子…」
デスクの引き出しの鍵を開けて履歴書の束を取り出した。
「…あった。大野耕治…?間違いないな…。あの人が依頼して来た青年じゃないか。これは偶然か?」
カタカタパソコンを叩いた。
(…あの人の依頼で“バーユ”した個人情報では、確か…彼の親か何かが御伽裡財閥の会社で…………)
カタッとエンターキーを押す。
「……親類はない……
か。早く何とかしてやらなきゃ」
日向は履歴書を見ながら机上の電話機を操作し、受話器を取った。