精霊の唄(怨霊編)

□五大霊能力巡礼の儀式:後編(全150ページ)
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7月1日、日曜日。

今日は、吾川高校の授業参観日。


時刻は午前6時30分。


蒼伺宅・耕治寝室。


「すぴー…すぴー…」


珍しく耕治が起きて来ないことを心配した蒼伺が様子を見に来たのだが…。

耕治は未だ夢の中のようだった。


「おーい、耕治ー。学校だぞー」


体を思いっきり揺さぶると、彼は着ていたタオルケットで頭を隠した。


「うーん………授業参観だろ……?俺には身内がいないのに、行ってどうするんだよ……。虚しいだけだ……」

「そんなことを言わずに…。公枝さんも楽しみにしてくれているんだぞ?」

「とにかく寝かせてくれ……。疲れているんだ………」

「どうしたものか…」


「蒼伺。やっぱり、駄目…?」


英雄が部屋を覗き見た。


「ああ…。可哀相にな……。わざと皆の輪から外れようと感情を押し殺して……。本当は皆と居たいだろうに……」


目にかかる前髪を除けてやると、顔を隠すようにうずくまってしまった。


「そうだ!いいこと思いついた!」

「なんだ?」

「またビデオ作ってよ。翔太のお父上も、俺がどんな授業をしているのか気になっていると思うし…なにより思い出になる!」

「それはいいな!という訳だ、耕治。皆と一緒に居られる時間は限られているんだ。皆との思い出の為に、一緒に行こう!」


そう言うと、耕治は起き上がった。


「分かった………。行く………」

「そうこなくてはな。さあ!支度支度ッ!」


蒼伺は仕事があるはずなのだが…。

彼は、保健室待機をサボって皆を撮影する役目をかってでた。









―――時刻8時30分。

予鈴が鳴った頃には、校内は生徒たちの保護者で埋め尽くされた。


2−C教室でも、生徒たちの背後では保護者が沢山いて賑やかだ。


翔太と聆笥と耕治は、いつも通りに雑談を交わしていたが…。

レックスは、翔太の足元で怯えていた。

これほど多くの人間が密集しているのだ。

様々な心の匂いによって戸惑っていた。


「しっかし、うるせぇジジイとババア共だなぁ……」

「翔太…そんなこと言っちゃ駄目だよ…」


「予鈴が鳴ったというのに、どうしてこうもやかましいのか。保護者の方がまず教育を受けた方がいいのではないか…?」

「耕治まで…。もう、君らは授業が始まるまで黙ってなよ…。君らの教育の方が疑われるよ…」


丁度その時、英雄が教室に入って来た。


「いやぁ。遅れてごめんなー。あんまり賑やかなもので、予鈴がちっとも聞こえなかったんだー」

「ほらみろ。担任も同じことを思ってんぜ」


「まったくもう……」

「それじゃあ、出席を取るぞー」


出欠を取った後、翔太は言った。


「先生!いつもと服装は変わらないけど、なんでオシャレしないんだ?保護者ががっつりガン見なのにさ」

「あいにく、媚びるのは嫌いなんでね。いつも通りにやらないと参観日の意味がないだろう?」

「まあ、確かにな…」

「んじゃ、本日の連絡事項!17日の火曜日から20日の金曜日までが期末試験期間になっている。中間試験とは違って副教科が含まれている上に、今回の試験範囲は教育委員会側の不手際によって従来の二倍になっている。重々申し訳ないが、何とか乗り切ってほしい。分からない所があれば、遠慮なく各教科担当の先生方を訪ねなさい。皆、今か今かと待ちくたびれているほどなんだ。連絡事項は以上!本鈴が鳴るまでトイレに行きたい子は行っておくように!」


英雄は教室を出て、廊下で村上教諭と合流した。


「いやぁ……忙しいですねぇ……。しかも、ヒトの熱気で暑いですし……」

「村上先生…ダレている場合じゃありませんよ…。それじゃあ、また!」

「はい!」


英雄と立ち代わり、村上教諭が教室に入った。

そこで、翔太が。


「あれっ?担任がいんのに、副担もいるんだな」

「当たり前です。副担だから日曜日は家でのんびりしているとでも思いましたか?(笑)」

「うん、そう思ってた…」


「そんなわけがないでしょッ!!!すみません…村上先生…。翔太……副担は担任よりも忙しいことも多々あるんだよ…?それに、考えてみなよ…。あの、岡崎先生のサポート役なんて大変に決まってるんだから……」

「…言われてみればそうかもな…」


村上教諭は窓際の掲示板の前で、後ろ手に腕を組んで静かに佇み、生徒たちを見守っているようだ。
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