永遠の存在U

□苦手意識(全27ページ)
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九月の下旬。


村川夫婦から預かった勇気と希望の体育祭が終わって、慶太と光輝は暇を持て余していた。


特にやることもない午前中。


二人はテレビを観ていた。


「…光輝。今日は、大学は?」


「…ドクターストップ」


「何で」


「…手首が壊れた」


「…マジかよ…」


光輝の右手の手首に包帯がある。


大学を休んで、はや半月が経とうとしていた。


「腱鞘炎が悪化したのか…。光輝、元気を出してくれ」


誠之がそう励ました。


「…ありがとう…」


光輝は、憂鬱な溜め息ばかりをついている。


「…あれっ?」


清香が何かに気付いた。


「清香。どうした」


「小父さん、お弁当を忘れちゃったみたい」


「慌ててたからな…」


誠之と清香は、台所のテーブルに置かれた包みを見る。


「しゃーねぇ、届けてやるか…」


慶太が重い腰を上げた。


「あ、慶太さん!今日はダメだよ!職安に行くって、小父さんと約束してたじゃない!」


「ゲッ…そうだっけ?何言われるか分からねぇな…」


また小言を言われては敵わないと、慶太は頭を掻いた。


「じゃあ、俺が行く」


誠之が名乗りを挙げた。


「誠之も随分と冒険が好きになったみたいだね」


光輝は微笑んでいる。


「父さんの勤め先まで送ってやるよ。ちょっと待ってな」


慶太は居間の隣の部屋に入り、数分経ってからスーツ姿で出て来た。


「わぁ…慶太さん、スーツ似合わないね♪」


「やかましい。誠之、行くぞ」


「おう」


誠之は紙袋にお弁当の包みを入れて、慶太と共に玄関を出た。


駐車場に置いてある車に乗り込んだ時。


「そういえば…慶太。小父さんは免許を持っていないのか?」


誠之がそう訊いた。


「持ってるけど?」


「どうして車で通勤しないんだ?」


「昔、事故ったんだと。車だけ大破して、本人は無傷で」


「…え」


「父さん、何でも出来るけど…車の運転だけは苦手みたいでさ。バイクは得意なのに」


「意外だな」


「俺ら、バイクのが恐いのに。本当に血、繋がってんのかね」


慶太は笑って、車を発進させた。
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