永遠の存在U

□二卵性双生児(全10ページ)
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2022年、春。


四月になって、まだあまり時間は経っていない。


桜が舞う、春うららかな今日この頃であるが…。


高級マンション「サンディアランス」の一室にて。


「父さん…。出張って、そんないきなり…」


短髪の青年は困り、荷物を携える父親に非難の眼差しを送る。


「すまないな…。何せ、急なものだから…今日、すぐに発たなければならないんだ」


父親は申し訳なさそうに、そう言った。


「そう…。体には気を付けて」


「ありがとう。金はネットバンクに振り込んでおくから、無駄使いはするんじゃないぞ」


「うん」


「光輝。慶太のこと…頼んだぞ。いつ、何をしでかすか分からん」


「分かってる」


光輝と呼ばれた青年は緊張の面持ちで頷く。


「全く…一度家を出たら鉄砲玉だな、あいつは…」


「今日は帰らないんじゃないかな」


「仕方ない…。ともかく、ネットバンクの暗証番号はお前に預けておく。何かあったら携帯に連絡してくれ」


「大丈夫。安心して働いて来て」


「おっと…もうこんな時間か。すまんが、後は頼んだぞ」


そう言って、父親は重い荷物を携えて玄関を出て行った。


「…そ
れにしても…何処をほっつき歩いてるんだ?一体どうなるんだろ…」


光輝は深い溜め息をついた。


彼の名前は、野杉光輝。


今年で21歳になる。


そして…光輝が不安に思う人物。


光輝の双子の兄なのだが…。


(高校を卒業するまでは良かったんだ。問題は…短大に入ってからなんだよな…)


兄は成績優秀で、学級委員等を積極的にこなしてきた。


誰にでも優しく、学校中の人気者だった。


それが…。


「たっだいまぁあ!」


当の本人が、昨夜も帰らないまま夜九時を過ぎて帰って来た。


「何処に行ってたんだ?」


「大学の同期と遊んでた。父さんは?」


「出張だってさ」


「出張?金はどうすんだ?」


「一応、預かってるけど…お前には使わせないよ」


「うーん…まあいいや。必要になったら言うわ」


「分かった…」


この兄の収入源は一体、何処なんだ…と。

光輝は呑気にあくびをしているコイツを横目で見ていた。
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