永遠の存在U

□花嫁候補(全29ページ)
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10月下旬。


「んじゃ、バイトに行って来る」


「ああ。気を付けてな」


夕方から深夜過ぎまで、慶太がキャシーへアルバイトに行っているお陰で。


誠之は少し退屈だな…と思っていた。


「誠之…。俺じゃ不満な訳?」


それを察していた光輝が苦笑する。


「光輝は、華のことがあるし…コンクール前だろう?何か面白いことないかな」


「面白いこと…ねぇ」


「面白いことと言えば…」


野杉が書類を誠之に手渡す。


「これは?」


「土地の権利書。兄貴達から、お前への誕生日プレゼントにと贈られた一等地のな」


「一等地ッ…」


誠之と光輝は肌をバリバリ掻いた。


「あ…相変わらず、やること大きいな…」


「土地か…。清香は何を貰ったんだ?」


「清香は女の子だしな…。ダイヤの指輪が贈られていた」


「ダイヤ?」


「…時価、数百万の純正らしい…」


「数百万ッ!!!」


誠之と光輝は、もはや声が出なかった。


「…宮島さんと神田さん…。どっちが金持ちなんだ?」


誠之の質問に、野杉と光輝は顔を見合わせた。


「そりゃあ…」


「神田財閥じゃないのか?宮島さんの方が顔は広いけど…」


「…いや、どっちもどっちかも知れん。世の中、不公平だな」


「父さん。地方公務員も立派な職業だって」


「学校の先生の日常なんて、そうそう見られるものではないし」


「…気休めでも嬉しいよ」


野杉一家には、蓄えが一切ないという。


何故か?


「一番の出費は、食費かも知れん」


そう考えた野杉は、慶太と光輝が高校生の時に家計簿を付けてみたことがある。


案の定、男三人の食費はとてつもなかった。


「1ヶ月の食費が、15万だぞ15万…。正直、首を吊ろうかと思ったな…」


「アハハ…凄いな…。俺がコンクールで取った賞金も、肥やしにすらならない」


「誰が特に食べてたんだ?」


また誠之の質問に、野杉と光輝は顔を見合わせた。


「…父さんじゃないの?」


「え?」


「自分の食欲、忘れたのか?」


「そうだったかな」


「でも、今は…」


親子は誠之を見た。


「俺?」


「アハハ。育ち盛りだからね」


「少し背が伸びたし、肉付きも良くなってきた」


肉付き…と聞いて、誠之は洗面所へ赴いた。
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