永遠の存在U

□二卵性双生児(全10ページ)
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帰宅すると、風呂あがりの慶太が弁当を食べていた。


「お帰りぃ」


「ただいま。どうしたんだ?いつもなら遊んでいるはずだろ?」


慶太は一度、家を出ると二日や三日帰らないのは当たり前だ。


でも…今朝出掛けたばかりの彼が今日、帰宅している。


本当に珍しいことだった。


「んー…本当は新宿でコンパすることになってたんだけどさ」


慶太は飯を頬張りながら言った。


「中止になったのか?」


「つーか、キレた」


「お前が?何でまた…」


しかし、慶太はそれ以上何も話さない。


普段は追求しないのだが、光輝は貰ったばかりのアドバイスを活かそうと初めて試みた。


考えてみれば、慶太は自分の愚痴は言わない。


今更それに気付いた。


今更…だ。


「…慶太。何があったんだ?」


光輝は慶太の隣に腰掛ける。


「え?別に何もないけど?」


「本当に?」


「何でそんなことを訊くんだ?」


「それは…だって、珍しいからさ…。心配…じゃないか」


心配…という言葉を出した光輝は赤面する。


照れ臭いのだ。


「あー…うん、本当に何でもないんだ。ちょっとした気まぐれ…とでも思ってくれたら良いよ」


慶太の瞳が一瞬…昔のような優しい瞳に戻った。


光輝は…兄に、少しでも昔の面影が残っていたことが嬉しかった。


「…そっか。あ、後でまた見てくれよ。お前に見てもらわないと、本当は提出するのが不安なんだ」


「そうだったのか?うん、分かった」


光輝は入浴する為に立ち上がった。


(…勇気の言った通りかもな…。慶太のことは俺が一番理解してなきゃならないのに…)


一方的に、慶太の行動を不快に思い、父親を不敏に思っていたのだが…。


どうも違う気がする。


(…相談して良かったな…。俺がしっかりしないと)


入浴を済ませて部屋に行くと、慶太が昨夜仕上げた絵を見ていた。


「光輝…どうしたんだ?何だか雑な絵だけど…」


「ざ…雑…???そうかな…何でだろ…」


「力が弱いというか甘いというか…。いや、出来はいつも通りみたいだけど…」


こんな指摘を受けたのは珍しい。


きっと、考え事をしながら描いたせいだろうか…。


「潰すしかないな…」


「勿体無いな…」


光輝はカッターナイフでカンパスを引き裂く。
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