香苑


−読者よ、君は時あって吸い込んだ事はないかな、
陶然とむさぼるようにゆったりと
聖舎に満ちた薫香を、
花袋に染み込んだ蘭麝の香を?

まことにこれは、現在に甦り、僕らを酔わせる過去の時間だ、
幽玄な魔法の魅力だ!
かくてこそ恋人は愛人の肌にふれて
思い出の甘やかな花も摘みとる。

生きた花袋寝室の振香炉と呼ぶにふさわしい
しなやかで重い彼女の頭髪から
野生の香気が立ち舞った、

そして爽やかな彼女の若さの染みこんだ
モスリンか、びろうどか、彼女の着物から、
毛皮の匂いが舞い立った。


『香』
−ボードレール詩集より−

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