音楽の部屋2

□☆・果たし状
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某日のとある川原に一人の青年がたたずんでいた。遠目から見れば忍者に思えるだろうが、頭巾と額当てを装着している頭部以外はとても忍者と思えない。首から下を上下小豆色のジャージで覆い、ジャージの裾とスニーカーの間からピンクの靴下が見えている。
と、そこにマントをたなびかせながら、白い羊のような仮面を被った男が現れた。
「待っていたでござる、魔王ヴィルヘルム」
ジャージ忍者は対峙する漆黒の魔王を見据えながら言い放った。魔王は仮面を外し、切れ長の真紅の瞳で相手を見返す。
「ああ、お前さんがあの果たし状の送り主か。忍田ヨシオ君」
「キャッ! どどどどうして拙者の名前を!?」
「そりゃ封筒の裏側に堂々と書いてありゃな」
「やはり悪の大ボス、裏の情報網を使って拙者のことを徹底的に調べたのでござるな」
「って、聞いてねぇし」
一人で勝手な推理劇を繰り広げるヨシオに、後頭部を掻きながら呆れた視線を投げるヴィルヘルム。
「で、なんだって果たし状送って来たって訳?」
ヴィルヘルムは頭をポリポリと掻きながらヨシオに問いかける。
「テレビ局の人も困惑してたみたいだぞ。ファンレターに交じって封筒の表面に『果たし状、魔王ヴィルヘルムへ』なーんてあったから、とりあえず俺に送ったんだと」
「ふ、それはもちろん、貴様が大悪党だからでござる!」
対峙する魔王をビッと指差すヨシオ。
「えーと、俺のどういったとこが?」
フィーバー戦士を見ていたちびっこ達にならとにかく、なぜ彼のような青年に大悪党呼ばわりされなければならないのかさっぱりわからなかったヴィルヘルムは再度問い直す。すると、ヨシオは遠い目をして語りだした。
「あれは一週間前のこと、拙者が慕い、お守りするかごめ殿がテレビをご覧になっておられた。普段はテレビなどご覧にならぬかごめ殿の視線は、画面に釘付けになっていた。そう、貴様の出ている画面に!」
「はあ、さいですか」
「拙者は衝撃でござった。そして悟ったのだ。これこそが貴様の卑劣極まりない作戦なのだと!」
「は?」
「かごめ殿のお心を虜にし、かごめ殿を己の意のままに操ろうとは、何と卑劣な!」
ヨシオは両の拳を握り、全身を震わせる。
「えーと、要するに、お前さんの好きな女の子が俺の出てた番組に夢中になってるのが気に喰わないと、やきもち妬いてると、そういうことか?」
魔王の指摘に頭巾の中の顔色を真っ赤に染めるヨシオ青年。
「ややややかましいでござる! 正義の鉄槌を受けるがいい!」
正義の忍者ヨシオはヴィルヘルムに向かって駆け出した。
「(ほう、なかなか素早i)」
「キャン!」
「へ?」
ヨシオはヴィルヘルムの真ん前で見事にこけていた。
「み、見えないほどのスピードで攻撃するとはさすがでござるな!」
「いや、俺何もしてねぇし。お前が勝手に転んだだけだろ」
「問答無用! 喰らうでござる! 必殺、手裏剣アタック!」
どこからか取り出した手裏剣を投げるが、
ヘロヘロヘロヘロヘロ・・・
全て目の前の地面にポトポトと落ちた。
「ぬう、念力で弾き返すとは・・・できる!」
「だから、俺なーんにもしてねぇって」
そんなヴィルヘルムの声などまるっきり聞いていないヨシオは
「それならばそちらからくるがいいでござる!」
と、攻撃を誘った。
「いいのか?」
「拙者は忍者、貴様の攻撃など軽く避けれるでござる」
「・・・あっそ」
魔王は瞬時に間を詰め、ヨシオの顔の前に右手をかざす。
「ほんじゃま」
ピシッ!
「キャッ!」
ヨシオの眉間にデコピンを喰らわせたのだ。ヨシオは弾かれた眉間を押さえてその場にうずくまる。
「はい俺の勝ち。んじゃな〜」
「ひ、卑怯者!!」
「卑怯って言われてもなぁ」
「普通魔王がデコピンしてくるなんて思わぬでござる!! 正々堂々、本気で勝負するでござるよ!!」
半泣きで眉間を押さえて蹲りながら魔王に抗議する自称忍者。
「あ〜の〜な〜、俺が本気で戦うと、お前は・・・」
言いながら魔王は右の拳をギュッと固める。
「こうなるんだよ!」
固めた拳を近くの土管にそのまま振り下ろした。
ボッゴォッ!
「キャーーー!!」
魔王の拳を受けた土管は見事に粉砕され、ヨシオの足元にまで破片が飛び散ってきた。
「こうなりたくねぇだろ? だからとっとと帰らせてくれ」
「シャルロットに会いに行きたいし」と心の中で付け加える魔王ヴィルヘルム。
「た、たしかにこうされたくはないでござる。しかし! た、たとえこの身が砕けようとも、拙者はかごめ殿をお守りするでござる!」
ヨシオは勇敢にも魔王にこう言い放った。腰は引き、膝から下がガクガク震えていたが。
「・・・そっか、そんなに好きなんだな。その子のこと」
ヴィルヘルムはヨシオにふっと微笑んだ。
「俺も、命に代えても守り抜きたいと思えるほど、好きな子がいるんだ」
「え? 魔王、殿にも?」
「ああ。とても純粋で、可憐で、無邪気な優しい子なんだ。彼女のためなら死んでもいい。そう心から思えるほど・・・だから安心しな。お前の好きな子を奪ったりしねぇから」
「さ、さようでござるか」
彼に別に好きな女子がいることを知ったヨシオは安堵の息を吐く。
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