音楽の部屋2

□せっかちさんとのんびりさん
2ページ/4ページ

ペタッ・・・ふーっふーっ・・・トントン・・・パサッ
ペタッ・・・ふーっふーっ・・・トントン・・・パサッ
少年は隣席の少女の動作の遅さにイラついていた。彼が十五分で終えた仕事を、彼女はまだ半分しか終えてない。別に急ぐ書類ではないのだが、短気でせっかちな彼には、おっとりのんびりした少女の作業はどうも癪に障るらしい。
イライライライライライラ・・・
ペタッ・・・ふーっふーっ・・・トントン・・・パサッ
イライライライライライラ・・・
ペタッ・・・ふーっふーっ・・・トントン・・・パサッ
イライライライライライラ・・・プチッ
「あーもう!! いい加減にしぃや!! なにをいつまでもちんとろちんとろしとんねん!!」
「す、すみませ」
「謝るくらいならさっさとしぃや!! ほんまやる気あるんか!!」
「は、はい。申し訳ありま」
「はあ!? 何で涙ぐんどるんねん!! そないしゅんとされても困るんやけど!!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
アーミィの次々と発するケンケンとした口調に、とうとうシャルロットは泣き出してしまった。
「おーい二人ともー、そろそろ休憩し、ってええっ!?」
ドアを開けた途端目に飛び込んできたこの光景に、ヴィルヘルムは驚いて固まってしまった。
片や仏頂面、片やえぐえぐと泣きじゃくっている。
「え、えーと、とりあえず何がどうなっているのか一人ずつ話を聞くから、アーミィは自室で待機だ」
「はあっ!? なんでわいが」
「自室で待機だ」
ヴィルヘルムの有無を言わさぬ威圧感のある声と、凄まじい目で見られては、さすがのアーミィも従う他なかった。
アーミィが退室すると、ヴィルヘルムは泣き続けるシャルロットの隣に座った。
「どうしたんだシャルロット? 何で泣いてるんだ?」
魔王は彼女の顔を覗き込み、優しく問いかけた。しかし、言いたいことが上手くまとめられず、シャルロットは「ひぐっ・・・えうっ」としゃくりあげるばかり。
それを察したヴィルヘルムは、少し間を置いてこう切り出した。
「じゃあ、こうしよう。動作だけでもいいから、俺の質問に答えられるだけ答えてくれ。いいか?」
シャルロットはコクリと頷いた。
「泣いてたのは、いじめられたからなのか?」
するとシャルロットは左右に首を振った。
「じゃあ、怒られたのか?」
今度はゆっくりと上下に首を振った。
「怒られたのは、失敗したからか?」
と、このようにシャルロットを急かすことなく少しずつ問いかけるヴィルヘルム。
「・・・なるほど。大体の事情は把握できた」
「ごめ、なさ」
泣きじゃくるシャルロットの頭に、そっと魔王の手が置かれた。
「謝ることはないんだぜ。この書類は急ぐ必要あるやつじゃないから。それに、最初から素早くできる奴なんかいないって」
赤い瞳に青い瞳をまっすぐに映し、エメラルド色の髪に覆われた頭を優しく撫でる。
「とても丁寧に、真面目にしてくれてたのは、この書類を見ればわかる。むしろ感謝しないとな」
「ありがとう」と言いながら撫でてくれる温かい手の感触に、シャルロットは安堵してポロポロと涙を流し続ける。ヴィルヘルムはシャルロットが落ち着くまで、ずっと彼女のそばについていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ