カオスの部屋

□寂し過ぎて
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「(ペルセポネはどこだペルセポネは?)」
誰にも見つからずに無事に地上にやってきたハデスは、愛しの妻の姿を探して辺りを見回します。と、見慣れた後姿が彼の目に飛び込んできました。
「ペルセポネ〜〜〜!!」
風よりも早く彼女に駆け寄り、いきなり背後から抱きつきました。
「むぎゃあ!! あんたいきなり何すんの!?」
「あれ? ペルセポネじゃ、ない?」
腕の中から発せられた声に、慌ててハデスは飛び退きます。振り返った彼女はペルセポネそっくりの顔立ちでしたが、声は全く違う別人だったのです。
「誰よそのぺルなんとかて? あたしはニンフのメンテー」
彼女は胸を張って名乗りました。しかし、声を除けばまさにペルセポネそのものです。
ペルセポネ、ペルセポネ、ペルセポネ、ペルセポネ、ペルセポネ・・・
ハデスの中で何かが切れました。
「私と冥府に来てくれないか?」
「はあ!?」
「君はどう見てもペルセポネ!」
「だから誰よそれ!!」
「我が愛しき妻ペルセポネはとてもかわいらしく愛らしい乙女だ」
「あ、あっそ」
「しかし、今はまだ春。彼女が冥府に帰るには時間が長すぎる。だが、妻そっくりの君が冥府にいてくれれば、私はいつでもペルセポネと一緒にいられる!」
「つまり、あたしに奥さんの身代わりになれって!? 冗談じゃないわよ!! お断りよ!!」
「待ってくれ〜!」
「いやぎゃあああああ!!」
逃げるメンテー、追っかけるハデスという斬新すぎる光景。地上に不慣れなハデスを引き離し、メンテーは必死に駆け抜けます。
「ひいいい!! 誰か助けて〜〜〜!!」
「あら、どうなさいました?」
騒ぎを聞き付けて現れたのはペルセポネ本人です。
「ぺルぺル言ってる変な男に追われてるの!! 助けて!!」
「え〜と、その方ってもしかして、ハデス様、ですか?」
「あー、名前は聞いてないけど、なんか冥府から来たとか言ってる変なおっさん」
その男が間違いなくハデスと確信したペルセポネはメンテーに謝罪します。
「申し訳ありません、その方は私の夫のハデス様です」
「えちょ、貴女の旦那さん!? ってことは貴女があの人の奥さん!?」
「はい、ペルセポネと申します」
「なんで一緒にいないのよ!? お陰であたし散々な目に遭わされてるんだけど!!」
「色々と事情がありまして、私はハデス様と冬の間しか一緒にいられないんです。あの方は本当はお優しい方なのですが、寂しがり屋さんですから、つい魔が差したものかと」
「だからって変な男に訳のわからない所に連れてかれるなんて嫌よ〜!!」
とうとうメンテーは泣き出してしまいました。かつてペルセポネも無理矢理攫われてきただけに、彼女の気持ちは充分察知できます。
「大丈夫です、私が貴女をお守りいたします」
「ほ、本当!? ありがとう!!」
「では、あなたのお姿を少々変えさせて頂きます」
ペルセポネはメンテーを小さな草に変え、近くの茂みに隠しました。
「これならハデス様にもわからないはずです」
「(ありがとう!!)」
「どういたしまして」
「捕まえた!!」
間一髪、メンテーを茂みに隠した直後にハデスがペルセポネに飛びついて来ました。
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