カオスの部屋

□欲しかったもの
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「はあ・・・」
冥府の王、ハデスは何度目ともわからぬ嘆息を吐きます。あのかわいらしい乙女の笑顔ばかり浮かんで、ちっとも仕事に身が入りません。
「・・・で・・・ま」
「(あの子は何という名前なのだろう?)」
「・・・デス様」
「(かわいらしい乙女だったな)」
「ハデス様ぁ!!」
「うわっ!!」
部下のハルピュイアの一羽に耳元で大声で呼ばれ、冥府の王は素っ頓狂な声を上げました。
「ハデス様、仕事の手がお休みしてますよ」
「ああ、すまない」
「一体どうしたっていうんですか? ハデス様がぼおっとなされるなんて」
「いや、実はこの間・・・」

「ああ、それはペルセポネ様ですね」
「え? 知ってるのか?」
「ええ。ゼウス様とデメテル様のお嬢様で、シケリア島にデメテル様とお住まいになられてますよ」
「そ、そうか、あの子はペルセポネというのか」
初めて知った彼女の名前を、ハデスは絶対に忘れないように頭の中で連呼します。
「(ペルセポネ、ペルセポネ、なんというかわいらしい名前、なんという可憐な乙女。ペルセポネ、ペルセポネ・・・)」
「わかったらハデス様、さっさと仕事し・・・ってダメだわ、すっかり別世界に行っちゃってる」
ハルピュイアの呆れた声も耳に届かず、冥府の王は仕事などそっちのけで乙女の笑顔ばかり妄想しています。
「(ペルセポネ、ああペルセポネ、一体どうすれば私のことに気付いてくれるだろう? どうすれば私に微笑みかけてくれるだろう?)」
なにしろ冥府でず〜っと籠りきりで仕事ばかりしていたハデスは、恋愛どころか対人関係の築き方にも非常に疎かったため、ペルセポネへのアプローチの仕方に悶々と悩みました。
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