音楽の部屋

□Il giorno di padre
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「・・・・・はあ」
ジズは今日何度目かのため息を吐いた。ここ最近、彼はなぜかシャルロットに避けられていた。
声をかけたらダッシュで逃げる。部屋には入れてもらえない。食事の時間もジズとの合い席を嫌がるかのごとく、彼が来た途端にさっさと席を立ち始める始末。
「私、何か気に喰わないことをいたしましたでしょうか?」
誰に言うでもなく独りごちるジズ。目の端には涙がうっすらと溜まっている。
「そんなに私は鬱陶しいですか? 今度から抱きしめたり、ほっぺすりすりしたり、おはようおやすみいってらっしゃいおかえりのチュー自重しますから」
ハラハラと涙が頬を伝う。ついで嗚咽を漏らし始める。
「どったのジズ? 泣いてんのか?」
背後から突如聞こえた低音にさっと振り返ると、友人のヴィルヘルムが入口の所に立っていた。それも片手に茶菓子の土産というおまけつきで。
「ヴィルヘルムさん、いつの間に?」
「いつの間にって、自分で呼びつけたんだろうが」
慌てて涙を拭うジズに苦笑しながら入室するヴィルヘルム。彼の向かいの席に座ると持っていた紙袋をポンッとテーブルの上に置く。
「ほら、土産にスフォリアテッレ買ってきたぞ。紅茶のお共にパーッと食おうぜ」
「ありがとうございます。しかし、今は食べたい気分じゃないんです」
はあ、と再びため息をこぼすジズ。もっとも、食欲がないと言っても幽霊なのだから心配することはないのだが。
「で、何だよ話って?」
「実は、最近シャルロットに避けられているみたいなんです。私には心当たりが全くないのですが、何か聞いていませんか?」
「いいや。つーか、どうして俺に?」
「最近急にシャルロットと親しくなりだした貴方なら、何か聞いているのではないかと思いまして」
ジズは「急に」と「親しくなりだした」を妙に強調しながら理由を述べた。その言葉に、魔王のルビーよりも鮮やかな紅の瞳が一瞬見開く。
「え!? いや、そのぉ、そりゃこの前1週間預かって一緒に暮らしたんだから、親しくもならぁな!」
「・・・そうですか」
ジズは「まだ疑ってます」という意志の籠った流し目で赤毛の親友を見やり、紅茶をズズッと一口啜る。
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