薔薇の部屋

□薔薇乙女と魔王
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1.異常な来客

「じゅじゅじゅ、ジュンくーん! 大変なのぉ!」
「どうしたんだよ?」
「玄関の前に人が倒れてるの!」

ジュンがドアを開けると、確かに玄関の前に誰かが倒れていた。
そこに倒れているのは長身の男性のようだった。その人物は黒いスーツに白いシャツ、白い手袋をはめていた。
ここまではおかしくない。
だが、その格好に漆黒のマントと蝶ネクタイ、胸の上で輝く青い宝石のペンダント、おまけに変な仮面が加わると、「変」を通り越して「異常」だ。
「・・・・・何だこいつ?」
ジュンは目の前の怪人物をいぶかしんだ。
「どうしましょう! 救急車に連絡した方がいいかしら!? ひゃ、110番〜!」
「救急車は119番。この場合は110番も正しいけど。・・・とりあえずここに放って置くのもあれだから、うちに入れるぞ」
パニック気味になっているのりに、ジュンは冷静に告げた。
「え? そ、そうね。じゃあお姉ちゃんが頭の方を持つから、ジュン君は足の方を持って」
姉弟2人で約2メートルの人物をふうふう言いながら運び入れた。
「さっきから騒々しいわね。何があったの?」
居間でソファーに座り、くんくんのDVDを視聴していた真紅が、テレビに視線を向けたまま問いかけた。
「真紅、ちょっと、そこどいてくれ」
「くんくんを見ているからダメよ」
「お願い真紅ちゃん、この人を、寝かせないと」
のりの言葉で、真紅は初めてこちらを見て状況を理解した。
「まったく、くんくんを見ている時に来るなんて、無作法な来客ね」
真紅は文句を言いながらDVDを止め、ソファーを明け渡した。
大柄な男性をどうにかソファーに寝かせると、2人は床に座り込んだ。
「あ、ジュン君どうしましょう?」
「どうするって?」
「これ」
のりは男性のかぶっている仮面を指差した。
仮面は白いフルフェイス状のもので、羊の骸骨をデフォルメしたような変わったデザインだった。額の所に「Ü」と読めるマークが入っている。
ジュンはその仮面に見覚えがあったのだが、今はそれどころではなかった。
「気絶してるんだよな? 呼吸し辛そうだし、外したほうがいいんじゃないか?」
ジュンが軽く引っ張ると、仮面はあっさりと外れた。
仮面の下から現れたのは、非常に整った青年の顔だった。見た目から判断すると20代くらいだろう。燃えるような紅の短髪、目の下から頬にかけて牙のような赤いマークが走っている。
「刺青・・・かしら?」
「わからないけど、このまま寝かせておこう」
ジュンが言い終えた途端に、上から静寂を破る音が聞こえてきた。
「えーん! 翠星石がいじめるのー!」
「待ちやがるですチビ苺!」
「走ったら危ないよ翠星石」
2階からドタバタと雛苺、翠星石、蒼星石が下りてきた。
「おい、静かにしろよ。病人がいるんだぞ」
ジュンが3人に注意した。その言葉で、3人は初めてソファーの上の人物に気付いた。
「だ、誰ですかこの変態は?」
「へ、変態って、翠星石・・・」
自分の後ろに隠れながら毒舌を吐く翠星石に、蒼星石は苦笑した。
「そんなみょうちきりんな格好をしている奴は、どっからどう見ても変態ですぅ!」
誰も翠星石の言葉に反論できなかった。
「へ、変態でも、静かにしてあげましょうね」
のりが慌てて翠星石達に言い聞かせ、男性だけをソファーに残して全員2階へと移動した。
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