音楽の部屋2

□淑女の幸せを願う
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「なあジズ」
私の向かいに座るヴィルヘルムさんが、突然真顔になって私に呼びかけてきました。
「ん? なんですか急に改まって?」
「孫の顔見たいと思わないか?」
ぶーーーっ!
はしたなくも口に含んでいた紅茶を噴き出してしまいました。
「あんたいきなり何言ってんですか!?」
「シャルロットが前に赤ん坊見てさ、『あんなかわいい子供が欲しい』って言ってたんだ」
「へえ〜、だから?」
声は冷静を保ちつつも口の端がピクピクと痙攣します。こぉの男はぁ、うちの娘になんという破廉恥極まりない感情を抱いてるんですかぁ!
「彼女人形だろ? 子宮無ぇじゃん」
「っ! ああ、そうですね」
言われて気付きました。たしかにシャルロットは人形、いくら精巧に作られているとはいえ、生殖機能は何もありません。
「子供が産めないなんて知ったら、彼女泣いちゃうだろ。俺、シャルロットの泣き顔なんて見たくねぇ」
不本意ですがそれには同感です。私もかわいい娘の泣き顔は見たくありませんからね。
「ジズ、彼女に性器作ってやれないか?」
「レプリカなら出来ても、本格的な機能は無理ですね」
「そうか、無理か・・・」
失望に駆られた彼は俯き、卓上の紅茶を見つめます。
「しかし、なぜ貴方がそのような心配をなさるのですか?」
「あー、そのぉ、なんっつったらいいのか・・・惚れ、ちまったんだよ」
ギリギリで聞きとれるか細い声で呟き、髪に負けないほど顔を真っ赤に染めるヴィルヘルムさん。我が旧友の魔王様は本当にわかりやすいほど感情が表情に出ますねえ。
「惚れた、ですって?」
私の問いに、赤面したまま彼は黙って頷きました。
「友人の娘に、人形にですか?」
「ああそうだよ!! 俺だって馬鹿だってのはわかってるさ!! 友人の娘に、しかも人形に惚れるなんて!! 頭がおかしくなったんじゃないかって!! でも好きなんだよ!! どうしようもないくらい!! あの柔らかな笑顔が、澄んだ瞳が、無垢な純心さが、堪らなく愛しいんだ!! ずっと笑ってて欲しい、幸せになって欲しいって、心の底から思っちまうんだよ!!」
堰を切ったように一気にまくしたてられました。久しぶりに見ましたよ、彼のこんな姿。
「・・・だから、さ。シャルロットの望みを叶えられたらなって」
いきなり大声を上げたことを恥じたのか、少し間を置いて話し出しました。
「人形師としてピカ一の腕前を持つお前になら何とか出来るかなって、さ」
「いくら私でも、こればっかりはどうしようも出来ませんね」
暗い沈み込んだ空気が一気にこの部屋に満ちました。
「いよーお前達! なーにしょげてるんだ?」
どこから湧いて出たのか、MZDさんが我々の横に立っていました。
「ギュア!?」
「おや、いらっしゃい。どうしたのですか?」
「なーんかどんよりした電波感じたからさあ、どんな根暗野郎かと思えばお前達かよ」
「根暗で悪かったな」
「で、何落ち込んでるって訳? 教えてみそ?」
「「・・・」」
無駄でしょうが、言うだけ言ってみることにしました。
「・・・実は」
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