音楽の部屋2

□魔王と魔女と二組の双子
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今日はどういう訳か、一人の魔女が城にやってきていた。
「あれ、ロキおば」
ドガッ!
城主の青年の言葉をさえぎる乱暴な音は、来訪者が自身の座る対面の椅子を蹴り飛ばした音だ。鋭い緑色の瞳で、無言でこちらを睨みつけてくる。それはよく知った人物に大変よく似ており、いや、似ていて当然だろう。親族なのだから。
「ろ、ロキお姉様、いらっしゃいませ」
額から冷や汗を流し、彼は慌てて言い直した。
「ふん、相変わらずのようじゃなヴィルヘルム」
来訪者は椅子に座ったまま、女王然とした態度を崩さずに言い放った。
彼女の名はロキ。アイスランドに居を構える魔女で、ヴィルヘルム達の母方の従姉伯母である。灰色がかった銀色の髪を二つに結い、真っ白なロングスカートのドレスに身を包み、真っ赤なロンググローブをはめている。魔女なので外見年齢は自由自在に変えられるのだが、基本はこの姿である。
「コーネリアスはどうした?」
「姉上は任務で朝からいないんだ」
ヴィルヘルムは蹴倒された椅子を直して、テーブルを挟んでロキの向かいに座った。
「お茶、どうぞ」
ジャックが紅茶セットの乗ったお盆を手にやってきた。
「おお、お前は気が利くなぁジャック。そこの影からこそこそしておるお前の兄と違って」
その言葉でジョーカーはギクリと身を強張らせた。
「あ、あら、いつからお気付きで」
「最初からじゃ。ヴィルヘルム、部下の躾がなっておらんようではないか」
「申し訳ございません」
伯母にただただ謝罪するしかできない魔王。
姉上はこの魔女様の遺伝を確実に受け継いでいるな。それも濃〜〜〜く。
「で、今日はどういった御用件で?」
「今日は新顔の紹介に来たのじゃ」
「新顔?」
「ラッテ、ロッテ、入ってこい」
ロキの呼び声で、入り口のドアから二人の少女が入室してきた。
「はじめまして、ラッテでーす」
「ロッテです」
水色の服の少女は右手を天高く掲げ、黒い服の少女は丁寧にお辞儀をした。
「双子の魔女見習いじゃ。魔法の修行のためにわらわの所に住み込みで働くことになった」
「へえ。はじめまして、俺の名はヴィルヘルム。君達のお師匠様の従妹甥でもあり、現魔界の魔王だ。よろしくな」
ヴィルヘルムはにへらとした笑顔で自己紹介をした。
「ねえロッテ、あの人超かっこよくない?」
ラッテと名乗った少女はヴィルヘルムを見てはしゃいでいた。
「そう? あのヘタレっぷり、私はごめんだわ」
ロッテと名乗った少女はズバッと言い放った。
「け、結構言ってくれるな」
ロッテの言葉に笑顔を引きつらせたヴィルヘルムと、必死に笑いを堪えるジョーカー。
「まあ、立ちっぱなしってのもあれだから座んな。ジャック、二人の分のお茶追加」
双子の姉妹もロキの隣に座り、ジャックは素直に頷いて紅茶の追加を取りに客間を後にする。
「ああ、お、俺も手伝うよー!」
これ幸いと便乗して、ジョーカーも弟について行った。
「あ、逃げた。情けないわね」
とどめとばかりにロッテの言葉がグサリとジョーカーに突き刺さる。ああ、立ち去るその背中が哀れ。
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